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スペインサッカーの伝統の一戦「エル・クラシコ」 その背景にあるものとは

2020 4/14 17:00Takuya Nagata
エル・クラシコⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

スペインの国民的な行事、世界も注目

「エル・クラシコ」と言えば、レアル・マドリーとFCバルセロナにより戦われる、スペインリーグの目玉だ。

スペインでは、普段サッカーを観ない人も「エル・クラシコ」は観戦するという人が多い。両クラブのサポーター以外も注目しており、ナショナルダービーと呼ぶにふさわしい試合だ。試合を中継するバル(居酒屋)には、道路まで人が溢れるほどの立ち見が出て、試合中に得点が入ると、街のあちこちから歓声が聞こえてくる。

世界中のスポーツを見渡すと、実に多くのライバル関係があり、それが競技を盛り上げている。だが、その中でも「エル・クラシコ」は異彩を放っている。

その理由として、欧州最高峰のスペインリーグの2強対決であることがまず挙げられる。世界中の有力選手を巨額の強化費用で獲得し、技術レベルが高いのだ。また、スペインサッカーは非常に攻撃的でスペクタクルな試合を展開しており、観戦していて飽きることがない。だが、このスポーツとしての側面だけで説明がつかないのが「エル・クラシコ」だ。

「エル・クラシコ」は日本語で「伝統の一戦」という意味になる。つまり、この戦いはスポーツの枠組みを超えた歴史の積み重ねによって、形成されてきたのだ。

中央支配への反骨心を託す、クラシコの社会的背景

両クラブが本拠地を置くカスティーリャ・マドリードとカタルーニャ・バルセロナという地域の歴史を紐解くと、その答えの断片を見つけることができる(ちなみに、レアルのBチームは、レアル・マドリード・カスティーリャと呼ばれている)。

歴史を遡ると、987年から1716年まで、現在のカタルーニャ州とほぼ同じ場所にカタルーニャ君主国が存在した。1137年に隣接するアラゴン王国とアラゴン=カタルーニャ連合王国を形成したが、対等な関係のもと、カタルーニャは主権を維持した。

一方で、現在マドリードのある地域には、カスティーリャ王国が成立。着々と勢力を伸ばしてスペイン王国となり、1479年にはカタルーニャを併合した。その後、1701年から1714年のスペイン継承戦争の結果、スペインによるカタルーニャ支配は確立された。

独立運動は、20世紀初頭も盛んだったが、1936年から1939年のスペイン内戦に勝利した反乱軍のフランシスコ・フランコが、その後30年以上も続く独裁政権を樹立。カタルーニャの伝統的な祭礼やカタルーニャ語を禁止し、地方を抑圧した。

スペイン語とカタルーニャ語はルーツが近い言語ながら、ほとんど意思の疎通はできない。カタルーニャ人としては、自分たちの居場所によそ者が土足で上がって来た、という印象を抱くことになった。

厳格な圧政の下、公に政府への反対運動をすることは許されなかった。そこで、カタルーニャの人々は、サッカーという名のオブラートに包み、スペイン中央支配に立ち向かうことを選んだ。ブラジルの奴隷達が管理人の目を欺き、身を守るために、音楽やダンスを織り交ぜた格闘技、カポエイラを創りあげたのと似ている。

そのカタルーニャの人々の想いを託されたのが、首都にある名門FCバルセロナだった。フランコ将軍は、レアルファンだったと言われているから、対戦が激化するのは尚更のことだ。

独立運動が再燃、あらゆる面で競争するレアルとバルサ

1975年にフランコ将軍が死去すると、独裁体制は解かれ、自治が復活した。だが、市民のスペインに対する不信感は根強く、近年またしても独立運動が再燃している。

2017年から2018年のカタルーニャ危機では、カタルーニャ州政府が独立を宣言したが、スペイン中央政府が警官隊を動員して制圧。一時、自治権を停止した。多くの政治家が逮捕・投獄され、独立宣言を行った当事者であるカルラス・プッチダモン元首相は、亡命状態にある。

2019年10月14日にスペイン最高裁が、独立派指導者に最長13年の禁固刑を言い渡すと、カタルーニャ州内には不穏な空気が漂った。その直後に開催予定だった「エル・クラシコ」が危険という判断から延期されたことからも、当時の状況をうかがい知ることができるだろう。

バルセロナは、地中海沿岸の交易都市で、多様な文化が栄え、観光業も盛んな豊かな地域だ。その潤沢な税収入が、スペイン中央政府に搾取され、スペイン全土にばら撒かれていると考えるカタルーニャ住民も多い。その昔、税の取り立てを拒絶したカタルーニャ住民を、スペイン軍兵士が皆殺しにしたという史実もある。

FCバルセロナは、カタルーニャ市民の声となることを運命づけられており、そのようなクラブの位置づけを理解して、政治に関するメッセージも積極的に発信している。

ただ、レアル・マドリーにも、一国の首都を代表するクラブとしての面目がある。バルサがスタジアムを改修したらレアルも改修。レアルが日本人選手を獲得したら、バルサも獲るといった風に。

このように「エル・クラシコ」は、どうしても譲れない対抗意識があり、様々な側面で両軍の意地がぶつかり合い、いやが応にもヒートアップするのだ。