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女子ゴルフ渋野日向子が勝ち切るために宮里藍から倣えること

2022 8/13 06:00森伊知郎
渋野日向子,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

全英女子オープンで1打足りず3位だった渋野

ゴルフの「AIG全英女子オープン」で渋野日向子はプレーオフに1打足りずに3位の結果だった。メジャーでこの順位は立派なもの。とはいえ、渋野は3年前の大会の優勝者という輝かしい実績があるとともに、今大会も初日は首位発進していたので、どうしても「勝てなかった」という見方をされてしまう。

最近のメジャーを振り返っても、今年4月の「シェブロン選手権」と、コロナ禍の影響で12月に開催された2020年の「全米女子オープン」の2大会でも一時は首位に立っていただけに、勝利を期待しているファン心理としては余計に「勝てなかった」となってしまうのだろう。

今回の「全英女子」は5打差を追いかける展開となった最終日に、首位からスタートしたアシュリー・ブハイは「75」(パー71)と大きくスコアを落とし、最後はチョン・インジに並ばれてプレーオフにもつれての優勝だった。それだけに、パープレーだった渋野に対して「勝つチャンスは十分にあったのに…」と思うのも致し方ないところだ。

ライバルが自滅するほど圧倒的な雰囲気を持っていた宮里藍

この結果を見て思い出したのが、米ツアーのルーキーだった2006年の宮里藍だ。

この年から主戦場を米国に移した藍は6月のメジャー「全米女子プロ」とその前週の「ショップライト」で最終日最終組になった。いずれも優勝はできなかったものの、当時帯同していた私たち日本メディアのみならず、日本のゴルフ界が「勝つのは時間の問題」と思っていた。

その後も「全英女子」で9位。「ウェンディーズ選手権」4位の好成績を収めるものの、勝てない。だが秋に日本ツアーに参戦すると、「日本女子プロ」と「ミヤギテレビ杯」の出場2試合で連続優勝する。いずれも2位に3打差をつけての快勝だった。

この時、藍の関係者が言った「“勝ち方”を思い出すために帰ってきました」の言葉が今でも耳に残っている。前年(2005年)は8月の「キャタピラー三菱」以降の9試合で4勝。そのうち3勝は初日から首位を守り通しての「完全優勝」だった。

その強さに裏付けられた“オーラ”のようなものがあり、それに周りの選手も圧倒されるのだろうか。「日本女子プロ」最終日は1打差を追いかけてスタートした辛炫周(シン・ヒョンジュ)がグリーン上でボールをマークせずに拾い上げるという初心者でもやらないような失態をして自滅した。

「ミヤギテレビ」では、最終日首位スタート(藍は1打差の2位)だった坂東貴代が前半に5ボギーで脱落。この年の賞金女王となった大山志保が8番までに4バーディーを奪って藍と首位で並んだものの、14番から4連続ボギーを叩いて3打差の2位に終わる。この2試合にはまさに「無双」とでもいうような雰囲気が藍には漂っていた。

日本ツアーで「横綱相撲」を

野球やサッカーなどの「対戦型」のスポーツと違い、目の前にいない(他の組でプレーする)相手とも争って成績が決まるゴルフで何が勝ち負けを分けるのかは難しいところだが、2006年の藍のように、勝つつもりで試合に出て、実際に勝つ「成功体験」のようなものも大事なのでないかと思う。

渋野の直近の優勝は昨年10月の「三菱電機レディス」だった。プレーオフで圧巻のイーグルを奪って勝利したのを覚えている人も多いかもしれないが、この時はペ・ソンウが正規のラウンドの最終ホールでスリーパットのボギーを叩いたことでプレーオフになった。

そもそもプレーオフになる可能性が極めて低かった試合で勝つのは、スターの資質として必要な「持っている」ことなのだろう。それでも今後日本ツアーに出場した時は昨年のような“棚ボタ”的なモノではなく、「横綱相撲」での勝利を見せてほしい。

藍は故障などもあり、米ツアー初優勝は4年目(2009年)の「エビアン・マスターズ」(※当時はメジャーでなく、大会名も今と異なる)だった。それでも翌2010年シーズンには開幕から2連勝するなど5勝を挙げ、日本のゴルフ史上で男女通じて唯一の世界ランク1位にもなった。

所属契約は同じ「サントリー」。米ツアー9勝の偉大な先輩のマインドを真似してみる価値はあるはずだ。

《ライタープロフィール》
森伊知郎(もり・いちろう)横浜市出身。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社でゴルフ、ボクシング、サッカーやバスケットボールなどを担当。ゴルフではTPI(Titleist Performance Institute)ゴルフ レベル2の資格も持つ。

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