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井上尚弥、初日視聴者数でも史上1位!地上波からネット配信へ移行する地殻変動

2022 6/12 06:00田村崇仁
井上尚弥,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ボクシング世界戦にアマゾンプライム参戦

日本のスポーツ中継はネット化の波が加速し、地殻変動が起きている。ボクシングの井上尚弥(大橋)がノニト・ドネア(フィリピン)に完勝した6月7日の世界バンタム級3団体王座統一戦はテレビの地上波中継がなく、会員制の有料インターネット動画配信サービス「アマゾンプライム・ビデオ」の独占で生配信された。

スポーツ中継で地上波の無料放送がお茶の間の大衆文化だった時代も今は昔。「モンスター」の異名を取る井上の目を見張るTKO劇だけでなく、スポーツビジネスの世界でも強いインパクトを残した形だ。

資金力豊富なインターネット通販大手アマゾンは4月、村田諒太(帝拳)対ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)の世界ミドル級王座統一戦を国内向けに初めて生配信し、スポーツ配信の世界にも本格参入した。

日本ボクシング史上屈指のビッグマッチで注目度が高く、具体的な数字は明かしていないが、配信サービスを始めた2015年9月以降、日本において配信された作品の中で配信初日の視聴者数で当時の過去最高を記録したという。井上戦はさらにこの記録を上回り、配信初日として史上1位を記録したと発表された。

世界で最も権威があるとされるアメリカのボクシング専門誌「ザ・リング」が定める最新のパウンド・フォー・パウンド(全階級を同一体重と仮定したランキング)で日本人ボクサーとして初めて1位に認定された井上は、実力だけでなく人気や注目度でもトップクラスであることが証明された格好だ。

従来のコンテンツは映画、ドラマ、バラエティー、アニメなどのエンタメが中心。プライムビデオ日本責任者の児玉隆志氏は「第2弾も本当に凄い試合でした。短い時間の間に井上選手とドネア選手が鍛えてきた力と磨いてきた技術がぎっしりと詰まった戦いだったと思います。第1弾、第2弾ともに今後も語り継がれる素晴らしい試合を配信させて頂いたので、今後の試合、スポーツコンテンツ編成へのプレッシャーを既に感じておりますが、皆様に喜んでいただけるような内容を引き続き配信していけるように努力して参ります」とコメントしている。

放映権料高騰、破格のファイトマネー

アマゾンプライムのスポーツ配信参入の背景には、破格のファイトマネーや高騰した放映権料がある。会員数は全世界2億人以上で、会費は年間4900円と月額500円のプラン。4月の世界戦はファイトマネーで村田が約6億円、ゴロフキンは約15億円と推定されており、スポンサー収入に依存する地上波だけでは対応が厳しくなってきたのが現実だ。

関係者によると、この時は村田のファイトマネーをプライムビデオ側が捻出し、これまで中継を担当してきたフジテレビが番組制作を請け負った。

他競技も選手や主催団体が潤うネット配信に傾き、地上波放送は減少傾向にある。海外のスポーツ中継では有料映像配信サービスDAZN(ダゾーン)などによる視聴が定着しており、日本でもプロ野球の一部やサッカーのJリーグがネット配信に移行した。

ただ米国などではスポーツの8~9割で有料放送の浸透があり、月1万円くらい払って視聴する文化が根付いているが、日本ではまだハードルが高いのが実情だ。収益と人気や普及を両立させる難しさにも直面している。

英国でスポーツは公共財、有料放送の独占禁止

「ドーハの悲劇」として知られるサッカーの1993年米国大会アジア予選イラク戦、マレーシアでW杯初出場を決め「ジョホールバルの歓喜」とも呼ばれた1997年のフランス大会予選イラン戦はともに視聴率48%前後。お茶の間での一喜一憂は日本列島を揺るがした国民的行事として記憶に残っている。

一方で有料ネット配信は熱心なコアファンに集中し、ファンの新規開拓が難しい面もあるといわれる。テレビ視聴率10~20%などと比べれば、さすがに地上波より視聴者数が減り、競技の人気拡大で頭打ちになる懸念も指摘される。

英国では、国民の関心が高い大会や試合を有料放送で独占中継することを禁じている。スポーツに「公共財」としての価値を認めており、五輪やサッカーのワールドカップ(W杯)、テニスのウィンブルドン選手権決勝などの注目イベントは「王冠の宝石」と呼ばれ、BBC放送など地上波で生中継されるのが常識だ。

コンテンツ争奪戦が広がる中、今後は日本でもこうした議論も広がる可能性が出てくる。11月に開幕するサッカーW杯は地上波とネット配信の共存となり、インターネットテレビ「ABEMA」が全64試合を無料生中継する。高額な放送権を獲得できたのは、ABEMAがアマゾンのプライムビデオと同様に親会社のIT大手サイバーエージェントの豊富な資金力によるものといわれている。

有料か無料、ネット配信か地上波か―。国内におけるスポーツ中継の未来はW杯サッカーが一つの分岐点になるかもしれない。

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