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東京医療保健大学女子バスケットボール部・インタビュー②恩塚亨監督

2019 10/16 11:00マンティー・チダ
東京医療保健大学バスケ部・恩塚亨監督Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

 

大学女子バスケ界を代表する東京医療保健大学。ここ数年は早稲田大学、白鴎大学と関東で3強を形成し、全日本でも力を見せつけている。
そこでアカツキファイブ女子日本代表アシスタントコーチとしても活躍する恩塚亨監督と、チームを担う選手たちから、チーム・監督・選手の在り方、今後の意気込みなどを伺った。3回に渡ってお届けする。
第2回は恩塚監督が行う選手交代の体制や、選手との接し方などを語っていただいた。

>>第1回:東京医療保健大学女子バスケットボール部・インタビュー①恩塚亨監督

試合中は選手を頻繁に入れ替える

-頻繁に選手を入れ替える体制にしたきっかけは?

恩塚監督:例えば、対戦チームと自分のチームを比較して、相手が個人の力で上だったとします。相手の80%とうちの100%が同じレベルだと。そうなると100%で常にぶつかり続けないと勝てないと思います。だから常に100%で戦い続けるため、フレッシュな選手に交代するというのが理由です。出たら1分でも2分でも100%で、しっかり遂行してこいという戦い方しか無いなと。

-選手にしてみたら、慣れていないとびっくりするでしょうね。

恩塚監督:短時間でも100%出せなかったら、交代している意味ないでしょ、と、それを意識した練習も結構しています。2分のスクリメージですね。

でも、出てすぐにエネルギッシュにやるって簡単なことではないし、チームや選手にも「ちゃんと自分自身を知らなければならない」と話します。ゲームの中で、相手が疲れている時に「自分が100%で行って初めてアドバンテージを取れる」と話すのであれば、そこの1分、2分に研ぎ澄まして、エネルギーを出す準備をする。そうしないと勝てない。それは、卑下するとかではなくて、ちゃんと自分の立ち位置や力を理解して勝負するべきだよと。人生でもそうではないですか。ちゃんと自分を知った方が良いよと言いますね。

交代でコートに入る1・2年生にもそのように言います。自信満々で自分が普通にやっていて勝てるという力があれば、余裕をもってすれば良いかもしれないですけど、「その力があると自分で評価している?」と聞きますね。

-選手を見る上で、メンタルをフォローすれば技術面も上がるかもしれない、技術面をフォローすればその反対がある。そういう部分も加味していますか?

恩塚監督: “没頭 ・没入”。練習などでそういうゾーンに入りやすい負荷とかメニューを持って行きますね。

東京医療保健大学バスケ部・恩塚亨監督Ⓒマンティー・チダ

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-恩塚監督は試合中一番どこを見ていますか?

恩塚監督:顔ですね。考えている事とか、戦う意思があるのか、自信を無くしているとか全部出ますよね。

-そんな時、大きな声に出して怒っているんですね

恩塚監督:僕が一番厳しく言っている事は、全力を尽くしていないことです。走るとかルーズボールを追いかけられるのかとか。その次は、チームの約束事をボーっとしていてとぼけちゃうこと、それだけしか言っていないですね。シュートミスとかバスケットで起こりうるミスは言ってもしょうがないので。そこを見逃さないようにしていますし、より集中力を高めてピリッとさせる意味でも言うようにしています。

-選手に怒鳴った後はベンチで声をかけているようですが

恩塚監督:怒鳴ったことに対して選手に確認しますね。もうトランス状態だと思いますよ。狂ったような局面の中、ぎりぎり自分を自制しているところで初めて、バスケットボールという競技で良いパフォーマンスを出せると思うのです。それをたらたら「あーごめん」というような感じでやっていても、パフォーマンスは出ないと思います。また、同時に、他の選手に言い聞かせる意味でも声をかけます。

-練習中でも顔を見ていますか?

恩塚監督:練習中も見方は一緒で、大事なことは‟より試合に近く”であり、試合よりも身体的・精神的にプレッシャーがかかる状態で良いパフォーマンスが出せるかというチャレンジをする。その成果を得られているかどうかを気にしながら見ています。

-結構追い込みますか?

恩塚監督:はい、追い込みますね。敢えて情報量も増やして、“わー”となっているときに、次は“これ・これ・これ”と3つ位課題を与えるみたいな。だから、昨年11月のインカレを優勝した後に、選手から言われたことは、「練習の方がきつかった」です。

昨年のリーグ戦は途中から合流しましたが、けが人がすごく多く、けがをさせないように練習していました。そうすると試合で思い切り戦わなかったのですよね。拓殖大学戦後の専修大学戦でも敗退し、 “バスケットの仕方が良くない”と、次の白鴎大学戦に向けてしっかり練習しました。

白鴎大学に2回勝ったことで“バスケットとはこうやるもの”と僕自身も選手も確かめることができた。リーグ戦が終わってからインカレに向けては、そういう発想で練習をしていました。
(昨年の関東大学女子リーグ戦はこの3連敗が響き優勝を逃すことになった)

インカレの決勝戦なんかはタイムシェアしながら、ベンチを見たら結構余裕そうだったので「休まなくていいんじゃない?」なんて言って送り出したこともありました。ここで選手の変化を感じることができました。

代表活動で直面した難しさ

-昨年のリーグ戦は代表活動のため、初めて恩塚監督が不在という時期もありましたね。そのための難しさを感じましたか?

恩塚監督:そうですね。自分で直接見る事が出来ず、難しいことが起こりました。ひとつはコンディション面で‟負荷のコントロール”。やり過ぎてしまうということはあったかなと。

もうひとつは、先日、富士通(Wリーグ)と練習試合してしっかりやられてしまいました。バスケットの仕方、エネルギッシュに戦うこと、自分たちがこういうバスケットをしようとしているけど、相手のフィジカルとかディフェンスの特殊なプレーに対して、自分たちのプレーが遂行できなくなってしまった。簡単に言うと“やりようがなくなって困っちゃう”というような状況を見た時に、自分たちがどう考えて、どのように打開していけば良いのかというところで、他のスタッフがコーチできていないなと感じました。だからこの1週間そういう練習をしていました。

-昨年の事は繰り返せない?

恩塚監督:そのためにも、違うステップとして、コンディショニングはきちんとできているし、コンセプトを持ってしています。さらに、コンセプトで行き詰った時にどう考えて、どのように立ち返ってからどう打開策を出してプレーしていけるかというのを確認しているところですね。

-春の選手権では、戦力からして東京医療保健大学が優勝と予想しましたが、拓殖大学にやられましたね。

恩塚監督:ぎりぎりの攻防で戦っていましたし、選手もコーチも頑張ってくれたと思うけど、そこで後手に回るのか、攻める気でいくのかで違うと思うのですよ。その後の、新人戦は先手を取ってやったではないですか。ちょっとした後ろ向きの気持ちから“崩れるよね”というのを理解できるようになったと思います。

-恩塚監督が不在という中で、変化が起こってしまうことについては残念に感じますか?

恩塚監督:僕、ずけずけ言うんですけど (笑)、試合中厳しく言いながら、気持ちを吹っ切らせることができる。それがトーナメントではできなかったなというのはありましたね。それ以外の頑張るというのはできていたと思います。

早稲田大学戦では、途中駄目になり、シュートが入らなくなりました。「勝ちたい気持ちが強く、気持ちが強いからこそ、うまくいかない時に落ち込んでしまう」というのを吹っ切れてやらないといけない。吹っ切れるための起爆剤みたいな、あるいは自分自身で変えるという力は、あの時なかったなと思います。早稲田大学戦の後半に「ごめん、途中から来て悪いけど」と切り出して結構言いました。これによって、吹っ切れてくれたと思います。それぐらいではないかなと。

あとちゃんと力を出せば力はあると思うので、自分たちで何とかするという気持ちが強いからこそ、うまくいかない時に落ち込んでしまうんですね。そういう時にどう吹っ切らせるのかは課題だと思います。本当にコーチの一言は大きいと思います。

-日頃からの関係性も踏まえて、気を付けている部分はありますか?

恩塚監督:試合や練習が終わった後に話をしていますね。思い通りに選手をコントロールしたいとは思っていない。俺の言うことを聞けとも思っていない。だけど、その精神状態では勝てないよと「言わないといけないと思ったら言うからね」と選手には言っています。

-2017年のユニバーシアードでは藤本愛妃選手が大活躍しましたが、その裏では恩塚監督から激励のメッセージがあったそうで?

恩塚監督:選手自身が自分の強みを理解してプレーすることが大切。ですが、それを理解した上でプレーしていても、試合を進めていくうちに選手が自分の強みを忘れてしまうことがよくあります。‟自分の強みが何で、その強みを信じてやる”というのを思い出させるリマインダーというのもコーチの仕事かなと。その仕事を果たしました。

東京医療保健大学バスケ部・恩塚亨監督Ⓒマンティー・チダ

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-ところで、相手が女性ということで難しい部分もありますか?

恩塚監督:僕、そこをあんまり考えないのですよ。一人の人間しか見ていないですね。

-ある程度平等にみないといけないとか?

恩塚監督:まったく無いですね。言わないといけないことは言います。そもそも社会に平等なんかないから。公平だと。選手の起用も、ベンチに入るのも4年生だからとか、この選手は一回も入っていないから1回ぐらい入れてやろうとか、一回もしたことないです。

-義理はない?

恩塚監督:無いです。それをやりだすと、基準がわからなくなりませんか?昨年もリーグ戦期間中に毎週ミーティングをしましたが、そんな中で10点満点中5.5点、4.5点と言う選手がいれば、もちろん5.5点の方がベンチに入るべきだと思いますね。例え0.1点でも高ければ。それをスタッフでも話をして、本人にもそう伝えます。上にいってないから変えられないと、はっきり言いますね。仕事でも評価を間違えるのはまずいではないですか。その評価が納得いかなかったら説明する。評価を間違えないようにするというのは、選手全員にも言っています。

-では今後に向けて意気込みをお願いします。

恩塚監督:その日にできる限り成長するために、出来る最善の努力をする。それしか考えていないですね。

-それしか考えていない、と仰りながらも考えているのでは?

恩塚監督:それを細分化すると、良い練習をする、良いコミュニケーションを取る、練習した成果を評価する、次のアクションに結び付けていく、それがチームに熱を帯びて、チームが熱い気持ちを持って戦える状況にサポートする。というのが上から2番目の段階ですね。

恩塚監督への取材を終えて

恩塚監督は、選手に対して「なぜ試合に出られないか」を映像や日々の関係性を通じて指導されていた。試合中には大きな声が響いて「いったい何事だ?」と思われることもあるようだが、その裏にはインタビューで語ってくださったことがあるとぜひ知っていただきたい。恩塚監督のような指導者が、もっと注目されて欲しいと切に願っている。


>>「東京医療保健大学女子バスケットボール部・インタビュー③永田萌絵選手、木村亜美選手、岡田英里選手、藤本愛妃選手」に続く