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関西学院大ファイターズ「第2の黄金時代」学生アメフト界を引っ張る王者の歴史

2022 5/20 06:00松平聖一郎
関西学院大QB鎌田陽大,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

桜美林大に45―21で快勝

温かい拍手と歓声が「絶対王者」の凱旋を祝福した。3年ぶりに有観客で開催されている関西学生アメリカンフットボール1部リーグの春季シーズン。「真打ち」の関学大が登場したのは、5月15日の王子スタジアムだった。関西地区でのゲームは昨年12月19日の甲子園ボウル以来。再び頂点へ踏み出す2022年の第一歩を見届けるために、1000人のファンが青いジャージに熱視線を送っていた。

他を圧倒する完成度と組織力を見せつける秋と違い、さすがの名門も春は成長過程にある。エースQB2年目の鎌田陽大(3年)が精度の高いパスを投げ込みながら、捕球体勢に入ったWR陣が何度も落球。コンビネーションに課題を残したうえ、昨年の地上戦を支えた前田公昭、斎藤陸の抜けたRB陣も、池田唯人(3年)、澤井尋(2年)を除いてアピールに欠けた。

2本目、3本目が出場した後半だけ見れば、桜美林大に対し17―14の僅差。「レシーバーがあれだけボールを落としたら、QBもノッていけない。弱点が出たわけだから、あとは修正しろよ、というところ」。冷静に評した大村和輝監督の目に45―21の快勝劇は映っておらず、約3カ月後に始まる「本番」へ気持ちは飛んでいた。

もちろん、春のゲームは調整の意味合いが強く、関学大が今年も学生日本一の最短距離にいるのは間違いない。各ポジションで充実した選手層、経験豊富なコーチングスタッフ、優秀なアナライジングチームが支えるアジャスト力、そして全員が持ち合わせる勝者のメンタリティ…。2011年から昨年にかけての11年間で、甲子園ボウル出場10回、学生日本一9回の輝かしい戦績は、盟主と呼ぶにふさわしい。

33年連続で甲子園ボウルへ進んだ1950年代から70年代当時と違い、各大学が強化に力を入れ、群雄割拠の時代だからこそ、その価値は計り知れない。「第2の黄金時代」とも呼ぶべき、直近のファイターズの足跡を振り返る。

2011年から4年間は学生相手の公式戦無敗

4年ぶりに甲子園ボウル出場を決めた2011年は、立命大との全勝対決がハイライトだった。攻守で宿敵を全く寄せつけず37―7の圧勝。22年ぶりに聖地で実現した日大との黄金カードも、DL池永健人、LB池田雄紀らタレント揃いのディフェンスが奮闘し、24―3の勝利を収めた。

翌12年は、法大と激突した甲子園ボウルで、エースQB畑卓志郎が決戦直前に負傷する大アクシデント。リードを許した第4Q途中に畑が途中出場し、同点TDパスを通すドラマチックな試合を制し、連覇を飾った。

日大と2年ぶりに雌雄を争った13年は、鳥内秀晃監督が次男のLB将希と「親子鷹」で最高峰の舞台へ。2年前にも活躍した主将の池永が大一番でQBサック3本を決め、ミルズ杯(年官最優秀選手)受賞。チームに3連覇をもたらした。

14年はQB斎藤圭、RB鷺野聡主将と4年生のオフェンスに実力者がズラリ。かつて煮え湯を飲まされ続けた日大に55―10と大勝し、最上級生は4年間、学生相手に公式戦無敗の偉業を成し遂げた。

2018年から甲子園ボウル4連覇

大きなターニングポイントが訪れたのは16年だった。その前年に、立命大との全勝対決を3点差で敗れ、5年ぶりとなるV逸。そして甲子園ボウル出場のレギュレーションが改編され、関西2位校にも敗者復活の機会が与えられた。

他地区との力関係を考えれば、リーグ戦後に開催される「西日本代表校決定トーナメント」の決勝も、実力で頭一つ抜けた関学大と立命大が争うことが確実(実際この2校以外、決勝進出は皆無)。つまり、最もフィジカルと頭を使い、疲弊する宿敵を2度、もしくは最低でも1度倒すミッションが求められたのだ。

改革1年目は、関学大が連勝し、早大の待つ甲子園ボウルへ。「初顔合わせ」を31―14で制し、2年ぶりに学生王者のタイトルを奪還した。

続く17年は、その年のスローガンだった「チェンジ」を体現。リーグ戦で立命大に敗れながら、戦術も、心構えも、全く違う姿で臨んだ代表校決定戦を34―3で制した。しかし、最大のライバルをうっちゃった劇的勝利に気持ちが緩んだのか、優位とされた甲子園ボウルでは日大に17―23とまさかの敗戦を喫している。

続く18年は、予期せぬ出来事で日本中の注目を集める激動の一年になった。同年5月の交流戦で、日大の選手がプレーを終えた関学大QBの背後から悪質なタックル。当時の指導者が指示したとして、一般のマスコミを巻き込んで、アメフトが思わぬ形で脚光を浴びた。

被害を受けた奥野耕世は心身ともにタフな一面を発揮し、エースとして早大との甲子園ボウルを制し、2年生でミルズ杯、甲子園ボウルMVPの2冠。アクシデントを乗り越え、学生ナンバー1の司令塔に成長した。19年はリーグ戦で立命大に敗れながら、代表決定戦でリベンジする2度目の下克上。2年連続の顔合わせとなった早大との甲子園ボウルも制した。

世界中がコロナ禍に見舞われた20年は通常のリーグ戦開催でなく、史上初めてとなるトーナメントで甲子園ボウル出場校を決定。28年間率いた「闘将」鳥内前監督からバトンを受けた大村監督が巧みなタクトで立命大との決勝を制し、日大と「因縁の対決」になった甲子園ボウルでも笑った。コロナ禍が続き、変則リーグ戦となった21年も盤石の強さで駆け抜け、4年連続の学生王者に輝いている。

強いだけでなく、数々のドラマも内包した快進撃。「青き王者」の時代は、まだピリオドが見えていない。

近年の甲子園ボウル成績


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