「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

スペインサッカーの名門レアルとバルサはなぜ明暗が分かれたのか?

2021 12/29 11:00桜井恒ニ
レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

スター選手は「諸刃の剣」チームの熟成ないがしろだった?

かつて一時代を築き、世界中のサッカーファンに注目されたレアル・マドリード(以下、レアル)とバルセロナ(以下、バルサ)。近年はチャンピオンズ・リーグ(以下、CL)で思うような結果を出せず、かつての勢いがやや失われている。

このスペインの2クラブの戦績がふるわない理由の一つは人気・実力ともに兼ね備えたスター選手の放出にある。

レアルは、毎年40〜50得点稼いでいたクリスティアーノ・ロナウド(最多は2014-2015シーズンの61得点)が2018年にレアルを退団した後、カリム・ベンゼマが穴を埋めようと年間25点前後の得点を重ねるも、すでに毎シーズン10〜25点稼いだだけに大幅な上積みとは言えない。むしろロナウドの後釜として期待されていたエデン・アザールのパフォーマンス悪化が大誤算となり、チーム全体の攻撃力は低下。CLで優勝から遠ざかっている。

一方、バルサも“MSN”と称されたメッシ、スアレス、ネイマールの強力3トップの副作用が出た。2014-2015シーズンに3人で120得点を叩き出して絶頂期を迎えるが、それと平行して2012年にジョゼップ・グアルディオラ監督、2015年にシャビ・エルナンデス、2018年にアンドレス・イニエスタらチームの核となる人材がいなくなり、従来の強みであるポゼッションサッカーが形骸化する。

2017年にネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍してMSNが解体すると得点力にも陰りが見えはじめ、CLで世紀の逆転負け(19年のリバプール戦)や大敗(20年のバイエルン戦)を喫するようになる。

結果論に過ぎないが、スター選手が大活躍し続けたことで、チーム全体の熟成が少しずつないがしろにされてきた。そうして彼らがいなくなった時点で負の遺産が噴出し、他国の強豪に勝てなくなったとも考えられる。

サラリーキャップの呪縛、採算度外視の補強はNGに

レアルとバルサが苦しむもう一つの大きな原因は、スペインリーグ1部・2部に2013年から設けられたサラリーキャップだ。

この制度は、クラブの収支の健全化およびクラブ間の競争率アップを目的に、試合の放映権、スポンサー収入などに応じて、選手やコーチの人件費、選手の移籍金などに使える費用の限度額を毎年定めるもの。これを破ると、選手の新規登録などが認められなくなる(選手を獲得・再契約できない)。

同制度の設立によってレアルとバルサは、莫大な借金をしてスター選手をかき集めてチームを立て直すという手を封じられ、共に“健全経営による世代交代”という同じ課題に直面している。

特に被害を被ったのがバルサだ。コロナ禍で観客動員数が大幅に減少し、2020ー2021シーズンのサラリーキャップが昨季に比べて4割近く減少。そこに、2017年に年間約1億3800万ユーロ(約180億円)の大型契約を結んでいた大エース・メッシとの再契約が迫る。

一度はメッシが50%の年俸カット(約90億円)を受け入れて5年の契約延長に合意したものの、バルサが期限内の資金調達を断念してサラリーキャップの額を上積みできず、メッシを選手登録できなくなる。そして契約満了したメッシをパリ・サンジェルマンへ0円移籍させてしまう失態を犯す。

経営面だけ考えれば、1年前にメッシの移籍を許可し、多額の契約金を受け取って赤字を縮小したほうが実りがあっただろう。

2021-2022年シーズンのサラリーキャップは、レアルがリーグ内トップの約7億3900万ユーロ(約960億円)。対するバルサは、リーグ7位の約9800万ユーロ(約127億円)。メッシがいなくなってブランド力も低下し、昨季の約3億4700万ユーロから大幅に減少。レアル・ソシエダやビルバオに負ける資金力だ。バルサにとって、当面サラリーキャップが選手獲得において重たい足かせになりそうだ。

レアルは明るい兆し、バルサは空中分解寸前

レアルは、数年前から積極的に若手の補強に取り組んでいる。ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス、久保建英(マジョルカにレンタル移籍中)、エドゥアルド・カマヴィンガらを獲得し、世代交代に向けて着々と動いている。

2021-2022シーズンには、監督がジネディーヌ・ジダンからカルロ・アンチェロッティに交代。後方の守備が整備される一方、レアル4年目を迎えたヴィニシウスがついに覚醒。リーグとCLで12得点9アシストと活躍する。

一時は移籍も取り沙汰されたが今ではエース級の存在にのし上がり、レアルの公式戦10連勝(12月20日のカディス戦で引き分けて連勝ストップ)、リーグ1位独走に貢献している。

2021年夏は悲願であるムバッペの獲得にこそ手が届かなかったが、2022-2023シーズンこそ加入すると取り沙汰されている。獲得競争が激化するアーリング・ハーランドもまだ移籍の可能性がある。

もしお目当ての選手を全員獲得できれば、過去の銀河系軍団、BBCトリオ(ベアル・ベンゼマ・ロナウド)に匹敵する新たな強力布陣が完成し、レアルがまた世界を席巻する日が到来するかもしれない。

バルサはシャビを監督として招聘。シャビ監督は事あるごとにポゼッションサッカーの重要性を口にしており(そして会見で「バルサはプレイの仕方を忘れてしまった」と語り)、チームの原点回帰を急ピッチで進めている。

ただし油断はできない。バルサはマンチェスター・シティのFWフェラン・トーレスを冬の移籍市場で獲得した一方、約1700億円以上(21年8月公表)の借金を軽減すべく(サラリーキャップとのバランスをとるべく)、フレンキー・デ・ヨング、セルジーニョ・デスト、サムエル・ユムティティ、フィリップ・コウチーニョ、リーグ第18節でスーパーゴールを決めた17歳ガビらに移籍報道が出ている。

サラリーキャップとのにらめっこが続くバルサは資金調達に駆けずり回っている最中で、レアルに比べて世代交代で遅れをとっている感が否めない。今季の戦績もCL予選敗退、リーグ7位とふるわない。もし冬の移籍市場が有力選手の狩場となればチームが空中分解し、シャビ監督による再興プロジェクトが遅延して暗黒期が長引くかもしれない。

【関連記事】
ACミランとバルセロナ…CLグループステージ敗退の名門が進むべき道
バロンドールはメッシが7度目受賞、W杯イヤーの新星出現に期待
クリスティアーノ・ロナウド「ホテル王」としてのもう一つの顔