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ACミランとバルセロナ…CLグループステージ敗退の名門が進むべき道

2021 12/18 06:00中島雅淑
ACミランのイブラヒモビッチ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

「死の組」突破できず…タレント不足深刻なミラン

UEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント組み合わせ抽選会がスイスのニヨンで現地時間13日に行われた。前代未聞の再抽選が行われるなど波乱の展開となったが、世界最高峰の戦いはしばしの中断期間を経て、いよいよ2月から本格化する。

今回はグループステージで起きたトピックスを振り返ってみたい。ACミランとバルセロナ。両チーム合わせて12回ビッグイヤーを掲げた欧州を代表する名門が、決勝トーナメントを待たずに大会を去ることになった。もはや、この特別なユニホームが相手に与える恐怖心、威圧感というものは感じられないと言っていいだろう。

8シーズンぶりの本大会出場となった前者はアトレティコ、リバプール、ポルトと同じ「死のグループ」に組み込まれた。これを勝ち抜くだけの戦力、そして経験値を有してはいなかった。

思えばここ数シーズン、セリエAは「ユベントスの作品発表会」と化していた。ロッソネーリにとってはEL出場権確保がやっとというシーズンが続いていたが、それは同時に移籍市場に資金投下ができなくなることを意味しており、強大なライバルたちにさらに遅れを取っていた。

こうして戦力値を落としていったミランだが、今シーズン開幕前には生え抜きでイタリア代表の絶対的守護神であるドンナルンマがパリSGに移籍。攻撃はいまだに39歳のイブラヒモビッチにおんぶにだっこと、タレント不足は深刻だ。

スクデット獲得で復活アピールなるか

かつてはタレントの宝庫であったチームだが、この惨状は予見できたことだった。ミランの栄光は元オーナーであるシルビオ・ベルルスコーニとともにあった。

一国の首相を務めた男は、その権力と巨大な資金力を背景に惜しみなく私財をクラブ強化につぎ込み、チームは数多のタイトルを手にしていったのだ。

しかし、17年クラブは中国の投資グループに経営権を譲渡。以来、欧州での彼らの序列は下がる一方だ。いかにネームバリューがあれども、ELにしか出場できないクラブに魅力を抱く選手は少ないだろう。現在セリエAではローカルライバルのインテルと激しい首位争いを演じているが、何としても10-11シーズン以来のスクデットを獲得したいところだ。

強いミランの復活をアピールすることができれば、望むような陣容を整えることも可能だろう。何が現在のチームに足りないのかが分かったという点で、今回世界屈指のレベルを持つチームと6試合の経験を積めたのは過渡期にあるチームにとって貴重な経験になったはず。高い“授業料”となったがこの学びを今後のリーグ、来シーズンに生かせるか。

バルセロナはメッシ退団で不安が現実に

こちらもまさかのグループステージ敗退となったのが、バルセロナだ。

1次リーグでこの大会を去るのは実に21年ぶり(当時は1次、2次リーグ後に準々決勝だった)。目を覆いたくなるような惨状なのが攻撃陣で、6試合でわずか2ゴール。開幕前のメッシ退団を不安視する声が現実のものとなっている。

グループで対戦したバイエルンには完成度の違いを見せつけられたばかりか、アウトサイダーと目されていたポルトガル・ベンフィカにも歯が立たなかった。チームはいまだ多くの問題を抱えており、クーマンに代わって11月からチームの指揮を執るシャビ新監督もどこから手を付けていいのか分からないのだろう。

さらにチームを動揺させたのは、10月末のアラベス戦後にピッチに倒れこみ、戦線を離脱後、不整脈との診断が下っていたアルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロの現役引退のニュースだ。不整脈は病状によっては命に係わることがあるため、この判断は尊重するしかないが、次々と起こる負の連鎖にチームは混乱している。

冬の移籍市場では新たなストライカー確保のために、ドイツ代表GKテア・シュテーゲンやアメリカ代表DFセルジーニョ・デストらの放出も取り沙汰されているが、さらなる大物獲得はチームとしての機能性を失うことにつながりかねない。補強は最小限にして、現陣容の熟成にもトライするべきだ。

ピッチ外での話題ばかりが先行するバルサだが、復調のカギはいかに「バルサらしさ」を取り戻すかだ。本来、人とボールが連動して動き、流れるようなパスワークから得点をするというスタイルだったはずだが、長きに渡ってメッシにすべてを依存していた。

バルサ在籍時に積み重ねたゴールは672.この男の後釜がそうそう見つかるはずがないのは誰もが分かっている。違う方法でのチーム構築を怠ったフロントの責任は重いだろう。

そういう意味でも現役時代にパスサッカーの「心臓部」だったシャビが帰ってきたのはもう一度アイデンティティを取り戻すというクラブの決意の表れである。まだ試行錯誤は続いているが、ELに回ったことは熟成のための時間を得たということだ。

ビッグクラブはこのコンペティションをさほど重要視するものではないとみなしており、リーグ戦に力を注げると見ていいだろう。今後のシャビのかじ取りに注目したい。

CL予選システム変更で伏兵が躍進

ビッグクラブが脱落する中、そのバルセロナを沈めたベンフィカやセビージャと同居した厳しいグループを勝ち抜いたリールやザルツブルグなど、今大会は伏兵の躍進も目立っている。グループBでは初出場のモルドバ・シェリフがホームでレアルマドリーに土をつけるという大金星を演じた。

大きいのはCL予選システムの改革だろう。以前ならこうしたクラブは本大会に参加することすらかなわなかった。イングランド、スペイン、イタリアといったUEFAランキング上位の国には多くの出場権が与えられており、彼らの多くはそのまま本大会に直接進むことができていた。

3位以下のチームは予備予選を戦わなければならなかったが、予備予選の対戦カードもUEFAランキングによって決まるため、番狂わせは起こりにくいというのが今までのCL予選の概要であった。

数年前からこの予選システムが大幅に変更され、UEFAランキングの下位グループ王者組(4ラウンド)と上位チーム予備予選(3ラウンド)と区分けされるようになり、予選段階で強豪チームに食われてしまうような対戦カードは組まれなくなった。

この改革により、多くのクラブにこの至高の舞台への参加が許されるようになったのだ。今後もこのようなアウトサイダーが大会を盛り上げてくれることを期待したい。

決勝トーナメントは2月から再開する。果たしてどのようなドラマが待っているのか。今シーズンも寝られない日々が続きそうだ。

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