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ラグビー日本代表は史上最強を証明できるか W杯開幕直前も見えない勝利への青写真

2019 9/18 17:00藤井一
南アフリカ戦前に整列するラグビー日本代表。2019年9月6日Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

4年前は間違いなく史上最強だった

4年前の第8回ワールドカップ(W杯)初戦、ラグビー日本代表は南アフリカに歴史的な勝利を収めた。快進撃は続き、それまで第1回からすべての大会に出場しながら1勝しかしていなかったのに予選プールで3勝。間違いなく日本のラグビー史上最強だった。

その4年前を経験しているリーチ マイケル主将は今大会の日本代表を改めて「史上最強」と言い切った。4年前、エディ・ジョーンズHCのもと、1日5部練というとんでもないハードワークを積み重ね、「もうあんな練習2度としたくない」と選手たちは口々に言っていた。今回はその時を超える成果があるということだ。

「前回はエディさんの指示に従うだけだったが今回のチームは自分たちで考えてやっている」とSHの田中史朗などは強く主張している。それが「チームの成長だ」と。W杯前にチームとして自信を深めるのはとてもいい。

問題は本当に史上最強なのか?ということだ。

ジェイミー・ジョセフの戦術と指導者としての資質

2016年にHCに就任したジェイミー・ジョセフの戦術は簡単に言ってしまえばキック主体である。それが相手チームにボールを渡し、ピンチを招くことのほうが多いという結果になって、途中から「これではダメだ」とキックの有効な使い方を模索し、ここにきてどうにかチーム全体で共有できるところまできたのが傍目にもわかる。

チームの成長は無論、他にもあるだろうが、最も大きいのがキックの使い方だといえよう。

では、翻ってジョセフHCはこの3年間で一体何を日本代表にもたらしたのだろうか?キックを推奨し、選手に考えさせ、考える能力を高めさせた指導者とは言えるかもしれないが、戦術についてはどうだろうか。

ジョセフHCを見ていると、エディ・ジョーンズHCの前のジョン・カーワンHCを思い出してしまう。カーワンHCも選手個々のフィットネス強化には限りなく力を入れた。それはそれまでの日本人HCの常識を超えるレベルで、彼の残したものはとても大きかったと思うが、結局最後は、より大きくて強い外国人を起用することでチーム力を高めようとした。

だが、それだけではティア1どころか、南太平洋の強豪フィジー、トンガにも及ばず、W杯では2007年、2011年と2大会連続で勝利無し。身長が高く身体能力に恵まれた選手を揃えることで世界と対等に戦おうとする考えから抜け出せたのが4年前の日本代表だったのだ。

今の日本代表は戦術面においては、成長というより迷い道をさまよいながらようやく4年前に近いレベルまでチーム力が復活してきたようにしか私には見えない。なぜなら、このプレーと戦術があればティア1相手でも勝負になるというような、勝利までのイメージが具現化されていないからだ。現状、フィットネスでは史上最強かもしれないが総合力では「?」と見えてしまう。

南アフリカの洗礼で改めて見えた課題

9月6日の南アフリカ戦を例にとれば、スクラムは長谷川慎コーチが言うように通用していたのだが、31分に失ったトライだけは直前のスクラムを完全に崩されている。当たり前だが「勝負どころのスクラム」でしっかり組めなければそれ以外のスクラムが通用しても、失点するし、試合に負けるのである。

またアタック面でいえば、スピーディーなトランジション(攻守の切り替え)でWTB松島幸太朗が奪ったトライは、目標とする「世界一のトランジションの速さ」からのトライだった。しかし、これは試合の後半、趨勢が決まってからのトライ。南アフリカにとっては勝敗ということで言えば痛くもなんともなかったし、その後逆転の気配すら感じさせなかった。

理想のプレーは見えたが、競った試合展開の中で発揮できるほどの完成の域に至ったとは言えず、ティア1相手に戦って勝つ青写真も実戦からは見えてこなかったのだ。

アイルランド、スコットランドを攻略できるのか

厳しい状況の日本だが、そうでなくとも「8強」への道は非常に険しい。

まず、9月20日の開幕戦でロシアに負けることなどあってはならない。また3戦目のサモア戦も勝利は必須。というのも、その上でさらに1勝積み上げたとしても、前回大会で3勝1敗で予選敗退したことを考えれば、決勝トーナメント進出を果たせるかは分からないからだ。

そして、最低でもどちらからか1勝を挙げなければならない対戦相手というのがティア1のアイルランドとスコットランドだ。

昨年のワールドラグビー最優秀選手にも選ばれたSOジョナサン・セクストンを擁し、ついに最新の世界ランク1位(9月9日発表)となったアイルランド。ゲームコントロールに関しては世界有数の実力者である名SHグレイグ・レイドロー率いるスコットランド。日本代表はこの2国との試合にどのように臨むのか。

ここにきて「アイルランドにもスコットランドにも勝てる」と希望的観測やエールの意味合いで語られているが、この両国は、80分間折れることなく挑み続けられるスピリットとち密な戦略がかみ合い、大きなミスなく戦えたときに、初めて勝機が見えてくる相手である。少なくとも選手たちはそれを知っているはずだ。

過酷な戦いが予想される一方で日本代表には大きなアドバンテージもある。W杯中は地の利があり、日程上も試合間隔が常に中6日以上と恵まれている点を最大限に生かして欲しい。そして、それまでに日本代表が少しでも完成度をあげられること、最良の結果が得られることを祈りたい。

それからこれは改めて強調しておくが、今までラグビーにあまり関心がなかったという皆さんにも日本代表だけでなくラグビーワールドカップをとことん楽しんでもらいたい。

アジアで初の祭典はまもなく開幕する。