就任会見で型破りな冒頭あいさつ
ネーションズチャンピオンシップが廃案となったことで将来に不安要素が残る日本ラグビー。そんななか、日本ラグビー協会は6月29日に森重隆氏を新会長に選出し、大幅な若返りを図る新人事を発表した。
森会長は就任会見冒頭で、巷でみかける自国開催ワールドカップのキャッチコピー「4年に一度じゃない、一生に一度だ!」について触れた。
「東京オリンピックだって来年56年ぶりに開催される。何十年後かはわからないが、また日本でワールドカップが開催できるような、日本にラグビーを根付かせるような態勢づくりを目指したい。たとえば2歳の子に、“一生に一度だ”なんて言ったら、2歳の子はどう思います?」と発言し、会見場を和ませた。
森重隆という男
森重隆といっても若い方にはピンとこないかもしれない。
現在67歳。70年代後半から80年代前半にかけて、新日鉄釜石が日本選手権7連覇を果たしたときの4連覇までの中心選手であり、日本代表の主将も務め、小柄ながら今よりはるかにテストマッチが少ない時代に27もの代表キャップを持つ名CTBだった。
ざっくばらんな人柄と軽妙な語り口。人心掌握にも長けており、同時期に新日鉄釜石を支えた明治大学の後輩でもある松尾雄治とともに、語り継がれるレジェンドだ。現役晩年には監督も兼任した。
現役引退後は家業の森ガラス店を継ぐため生まれ故郷の福岡に帰り、その傍らで九州協会では要職を務めた。また、自身の母校でもある福岡高校を指導した際には、現日本代表WTBの福岡竪樹の育て、福岡高校を28年ぶりに花園の全国大会に出場させている。名指導者と呼べる人物だ。
「協会は若返るべき!」と自ら名誉会長を辞した森喜朗氏が、新会長に推したのも頷ける。一応、若い世代に誤解がないようお断りしておくが、元総理でもある森喜朗氏と森重隆新会長とは何の血縁関係もない。
現況の理解と構想
決して偉ぶらず、時にオトボケ発言もする森会長。彼はかなり頭が切れる。
サンウルブズが2021年にスーパーラグビーから除外され、2022年からワールドラグビー(WR=ラグビーを国際的に統括する組織)が新たな大会としてティア1の10か国と日本、フィジーの12か国で開催しようとしていたネーションズチャンピオンシップ。
それが実現に至らなかったことで、このままだと日本がいわゆるティア1レベルの国や地域と試合する機会が急激に減る可能性が高く、日本ラグビーの未来を考えたら自国ワールドカップ開催前とはいえ、逆風の中にいるといっても過言ではない。
森会長は今後の国際舞台での交渉力強化も踏まえた上で、まず「トップリーグの早期プロ化」を目標に掲げた。プロ化が競技レベルを急激に上げてきた歴史は、90年代のJリーグ、近年のbリーグの例を挙げるまでもない。まず、できることから手を付けるということだ。
トップリーグの現状
「えっ?トップリーグってプロのリーグなんじゃないの?」と思う方も多いかもしれない。
しかし、2002年から始まったトップリーグの実態は、それまでの「東日本社会人リーグ」「関西社会人リーグ」「西日本社会人リーグ」を合体させ、単にリーグ規模が日本全国になっただけのもの。チームの大半は日本人選手は全員社員で、外国人選手なども同様のケースが多いが、プロ契約をした選手を含んでいるチームもある。
折悪く、トップリーグのトヨタ自動車で2人の麻薬所持選手発覚という事件が起こった。この時、新体制の日本協会は7月3日、トップリーグ各チームに全選手から個別に事情聴取を進めるよう指示を出すなど早急に対応。この件については、残念極まりないと言うに留めておこう。
新副会長は清宮克幸
そのトップリーグの改革は、副会長に抜擢された前ヤマハ発動機監督の清宮克幸氏が担当することになる。今までチーム強化ということで数々の実績を残してきた清宮氏には、大胆な腹案があるようで、今度は組織強化にどのような手腕を発揮するのか大変楽しみだ。
また、トップリーグのこととは別に「ジェイミー・ジョセフはワールドカップ後も日本代表のヘッドコーチを続投すべき」という発言をした清宮氏。ここまで結果を残しているかどうかについては微妙なジョセフHCをいきなり評価してしまった。
これには協会内も物議をかもしたようだ。もとより、清宮副会長を高く評価している森会長は「若い人には思い切ってやってほしいが、私の役目は彼らが暴走し過ぎないような舵取り的なものだとも思っている」と話しており、今後の両者の関係にも関心の目が注がれる。
日本ラグビーの喫緊のテーマは自国ワールドカップ開催成功と日本代表悲願のベスト8入りだが、同様に大事なのがその後も代表の強さを維持し高めていくことだ。しかし現状は、前述したように問題が山積み。自身の拠点を福岡から東京に移すことも明言している森会長だが、果たして日本代表強化につながるような抜本的な改革はなされるのだろうか。