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【ラグビー】ジャパンの強みと弱み浮き彫り、辻雄康ら期待の選手も

2022 6/13 06:00江良与一
東京サントリーサンゴリアスの辻雄康,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

「花試合」ではなくガチンコだったチャリティーマッチ

ラグビー日本代表候補で構成された「エマージング・ブロッサムズ(以下BLO)」と、日本でプレーするトンガ出身およびトンガにかかわりの深い選手で構成された「トンガ・サムライフィフティーン(以下TGA)」が対戦するチャリティーマッチが6月11日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、BLOが31-12で勝利した。

海底火山の噴火とそれに伴う津波で甚大な被害を受けたトンガの人々に日本の善意を届けることが第一義とはいえ、TGAは同国伝統舞踊「シピタウ(ウォークライ)」のオリジナルバージョンまで創り上げてくるなど気合十分。迎え撃つBLOメンバーも来年のフランスW杯に向けての貴重なアピールの場とあって、全力プレーで応戦した。

つい1週間前までリーグワンが行われていたため準備期間が短く、両軍ともチームとしての成熟度は今一つではあったが、チャリティーマッチとは思えない引き締まった一戦となった。

2015年W杯から受け継がれるレガシー

BLOの勝因の一つは安定したスクラムだ。FW8人の平均体重ではTGAを下回っていたが、左プロップにジャパン代表経験もある中島イシレリ(コベルコ神戸スティーラーズ、以下神戸S)を擁し、嵩にかかって押し込んで来るTGAのスクラムのプレッシャーをものともせず、むしろ押し勝ってチームの士気を高めた。

FWの健闘はスクラムだけではない。TGAが頼みとする巨漢ぞろいのFWの突進を止め続けた、複数人でのタックルとその後のリサイクルの速さは特筆ものだった。

前半23分のTGAのトライこそ密集近辺でのディフェンスの穴を突かれてエセイ・ハウンガナ(埼玉パナソニックワルドナイツ、以下埼玉WK)に奪われたが、このトライ以降しっかりと修正。後半にシオネ・ハラシリ(横浜キヤノンイーグルス、以下横浜E)に個人技で力ずくのトライを取られるまでは、密集近辺の穴はほとんど見当たらなかった。

1対1の戦いが不利なら複数で確実に止め、その後の戦闘にも素早く復帰することは、2015年W杯以降のジャパン代表クラスの選手にはレガシーとしてしっかりと受け継がれている。

また、このレガシーはFWのみならずBKにも受け継がれ、TGAのラインを何度も寸断させるとともに、FWとも連動してキックキャッチ後のカウンターアタックもことごとく不発に終わらせた。大柄でスピードのあるBKのバックスリーを好き放題に走らせなかったディフェンス網が、来月のフランスとのテストマッチでどこまで通用するのか今から楽しみだ。

課題はラインアウト

一方で、ミスが目立ったのがラインアウト。ノットストレートや相手スチールに遭ってマイボールをキープできなかったのが3回。スローワーを務めたフッカー堀越康介(東京サントリーサンゴリアス、以下東京SG)はリーグワンの決勝でもラインアウトのスローが安定しなかったので、今後の改善が急務だろう。

マイボールラインアウトのボール確保は彼個人の課題である以上にチームとしての課題であるため、首脳陣の指導とエクササイズの徹底が必要だ。

もう一点、チームとしての成熟度が低い状態ではあったが、BKラインでの攻撃があまり有効でなかったことも気になった。

前半30分過ぎのラファエレ・ティモシー(神戸S)が絡んだ攻撃では奔放なパス回しと、各選手の意外性のある走りのアングルチェンジで大いに観衆を沸かせたが、このプレーも結局得点には結びつかなかったし、これ以降は右WTB竹山晃暉(埼玉WK)が挙げた一つのトライを除いては、バックスリーが目立つシーンがほとんどなかった。

リーグワンでシーズン最多ラインブレイクを果たした左WTB根塚洸雅(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、以下S東京ベイ)にはトライにつながりそうな生きたボールはほとんど回らなかった印象がある。

SH茂野海人(トヨタヴェルブリッツ)、SO田村優(横浜E)、インサイドCTB立川理道(S東京ベイ)のジャパンBKラインの司令部とでも言うべき3人には、ジャパンの得点源であるWTBのスピードを最大限に活かすゲームメークをもう一度考え直してほしい。

今後期待したい選手も登場

チーム全体の出来とは別に、個人として今後の活躍に期待したい選手も何人か出てきた。まずはこの日、右LOとして出場した辻雄康(東京SG)。LOとしてセットプレーの中心を担うほか、豊富な運動量で常に密集にその姿がある。後半にはTGAのデカい選手たちと密集でボールを奪い合った末に、ついにはもぎ取ってしまうという力強さをみせた。

自分がジャパンに選ばれるために、そして世界の強豪たちと戦うためにどうしたらいいかを常に考え、必要とされる筋肉を意識して重点的に鍛えている意識の高さを考え併せると、ここのところ外国出身者に独占されていたLOというポジションに割って入ってくる可能性は十分にある。

ラインブレーカーとして期待したいのがテビタ・タタフ(東京SG)。この試合でも何度か力強い突進で母国トンガのディフェンスラインを突き破るプレーを見せたし、チーム最後のトライも、追いすがる3人ほどの選手をなぎ倒した末に挙げた。

防御の穴を作り出す仕掛けがジャパンの攻撃の生命線であることは事実だが、時には相手の防御を正面から突き破る力強さを見せることも必要だ。そのまま得点のチャンスに結びつけることもさることながら、その後の攻撃の選択肢を多くし、ディフェンス陣の迷いを誘うことにもなる。現在のジャパンに不足しているピースであるラインブレーカー候補として注目していきたい。

ラインブレーカーとしては、この日TGAのSOとして出場していたレメキロマノラヴァ(NECグリーンロケッツ東葛)も有力な候補。元々決定力の高いWTBとして15人制のジャパン代表に選ばれた実績もあるし、7人制でもジャパンの中心選手として活躍していた。

この日もBLOの分厚いディフェンスを何度かブレイク。キックの精度にはやや欠けるが、ジャパンのSOまたはアウトサイドCTBとして使ってみても面白いのではないか。

18日からいよいよ正式なテストマッチが始まる。世界10位のジャパンよりランキングでは格下のウルグアイ(19位)との2試合(6月18日、25日)は、様々な選手を試す場としての意味合いが強くなるだろう。しっかり勝った上で課題を修正し、7月2日と9日に予定される世界ランク2位のフランスに挑んでほしい。

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