職人技を見せた75分、スピード感と力強さ
フィギュアスケート男子の2010年バンクーバー冬季五輪銅メダリスト、37歳の高橋大輔がプロデュースと演者を兼ねて出演した新機軸のアイスショー「滑走屋」が福岡市のオーヴィジョンアイスアリーナ福岡で2月10日から12日まで3日間行われ、大盛況のうちに幕を閉じた。
各日3公演で一つの公演は1時間15分と魅力を凝縮させたショー。不眠不休で準備に奔走した怒濤の3日間を終えた高橋は、自身のSNSで職人技を見せた約20人のスケーターが集結した写真を掲載し「滑走屋、完走致しました。どうしても新しい事がしたく、時間の制限があるのは分かっていましたが、難しい事に挑戦しました」と感謝の思いをつづった。
アイスダンスで村元哉中とペアを組んで国内外のファンを魅了し、惜しまれながら2023年5月に2度目の競技引退を表明。プロスケーターとして再出発し、元世界選手権王者として総指揮した「75分間ノンストップの氷上エンターテインメント」はスピード感や滑りの迫力を追求し、独自の世界観を生み出す内容となった。
公開された開幕前の共同会見で、高橋は「スケートのスピード感、力強さ、曲の展開を軸に置いて面白いものができあがった。エンターテインメントの世界はすごく進化している。スケーターも変化を求めていかないといけない。ジャンプがなくても感動できるところがある。アイスショーの何か新しい形をつくっていきたい」と挑戦への思いを語っていた通り、新たな扉を開く新感覚のアイスショーとなった。
次世代発掘へ現役大学生も出演、振付師の鈴木ゆまさんとタッグ
今回のショーで特筆すべき点は2014年ソチ冬季五輪代表の村上佳菜子や、高橋とアイスダンスでペアを組んでいた村元哉中、友野一希や山本草太ら国際経験豊富なトップ選手に加え、江川マリア(明大)、松岡隼矢(法大)といった現役大学生の若手選手を選抜し、競技普及と次世代発掘への可能性を広げた点にもあるだろう。
総指揮する高橋が「かなりハード」と苦笑いしていた9公演のプログラムに挑戦できたのは未来につながりそうだ。高橋自身もインスタで「みんなが全力で同じ方向を向いてくれていました。残念ながら最後まで走り切る事が出来なかったキャスト達もいましたが、この新しい挑戦に挑んでくれた事に感謝しています」と熱い思いを込めた。
振付を担当したのは劇団四季などミュージカルや舞台でも活躍してきた鈴木ゆまさん。この異色タッグも「舞台の構図や見せ方にものすごく感動した」という高橋自ら「ダメ元でオファー」して実現したのだという。
4年ぶりのソロナンバーも披露、ショー普及へ次回公演も意欲
日本男子フィギュアスケート界でパイオニア的な存在でもある高橋は、世界屈指のステップと表現力を武器に、2002年世界ジュニア選手権、2010年世界選手権で日本男子初制覇。冬季五輪は3大会に出場し、2010年バンクーバー五輪で日本男子初の表彰台となる銅メダルを獲得した。
2014年に一度現役を退き、2018年に復帰。2020年にアイスダンスに転向し、全日本選手権優勝、世界選手権で日本勢最高位に並ぶ11位と結果を残した。
プロスケーターに転身しても挑戦への意欲と情熱は一向に変わらない。
今回のショーでは4年ぶりとなるソロナンバーも披露し、演出からグッズ製作までをフルプロデュース。競技の普及もコンセプトの一つに掲げており、ショーを普及させたい思いからチケットも比較的、低価格に設定したという。
アイスショーで求められる表現力や踊るテクニックは、現役選手にとってはメダルを争う競技にもつながる。高橋はSNSで「俺たち滑走屋、どこかでまた皆様の前に現れたい!その前にフルキャストで、もう一度でも良いからやりたい!!全ての思いは伝え切れてないけど、ほんとにありがとうございました。」と次回公演への意欲とほとばしる情熱を込めた。
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