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松田瑞生の好記録を支えたのはあの伝説の職人、厚底ブームに待った?

2020 1/27 13:16鰐淵恭市
松田瑞生Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

大阪国際女子マラソン優勝で東京五輪代表に前進

世界的な厚底ブームに一石を投じる結果になったかもしれない。

東京五輪女子マラソン代表の最後の1枠を争う大阪国際女子マラソンが1月26日にあり、松田瑞生(ダイハツ)が優勝した。タイムは日本歴代6位となる2時間21分47秒。日本陸連が定める派遣設定記録(2時間22分22秒)を突破し、代表の有力候補に躍り出た。

内容もさることながら、今回のレースで注目されたのは松田の「足元」。昨今、ナイキの厚底シューズが好記録を生み出す中、松田が履いていたのは日本の「伝説の職人」が作り出したものだった。

三村仁司氏が手掛けた薄底

松田が履いていたのはニューバランス製のシューズ。ニューバランスと聞けば海外製と思うかもしれないが、手がけたのは日本の三村仁司氏。アシックスの社員時代に、有森裕子、高橋尚子、野口みずきといった歴代の五輪メダリストを担当し、現代の名工にも選ばれたことがあるシューズ職人である。現在はニューバランスと契約し、松田らを担当している。

ナイキの厚底に対し、三村氏は薄底シューズを作り続けてきた。今回の松田も薄底である。また、海外ではプロランナーでも既製品を履く選手が多い中、三村氏が作るシューズは完全オーダーメイドなのが特長だ。松田のシューズも、本人からの要望で、直前でミリ単位の修正を施したという。まさに日本が誇る職人技である。

その微調整したシューズの力もあってか、松田は序盤から、先頭集団でレースを引っ張った。高速ペースを維持して、福士加代子(ワコール)、小原怜(天満屋)をふるい落とし、最後は31キロ付近でスパートして海外勢も振り払った。終盤こそペースを落としたものの、自己ベストを36秒更新して派遣設定記録を突破。これで、最終選考会となる3月の名古屋ウィメンズマラソンで松田の記録を上回る選手が出なければ、松田が東京五輪の代表に決まる。

松田の走りは厚底でなくとも好記録が出ることを証明し、ナイキの「一人勝ち」の流れに「待った」をかけた形だ。ちなみに、今回のレースでは、福士はアディダス、小原はアシックスを履いていた。少なくとも大阪国際女子マラソンでの日本勢は、厚底ブームとは一線を画していた。

テレビではピンクの靴だらけ

一方で、日本男子は反発力のあるカーボンファイバー(炭素繊維)の板を中に挟み込んだナイキの厚底シューズを履いた選手が好記録を生み出している。マラソンの日本記録保持者の大迫傑(ナイキ)、前日本記録保持者の設楽悠太(ホンダ)も厚底の「愛用者」だ。

駅伝界も厚底の流れにある。今年の正月の箱根駅伝では全体の80%を超える選手が履き、10区間中9区間の区間賞の選手が使用していた。優勝した青山学院大、2位の東海大は出場した全選手が履き、青山学院大は大会新記録をマークした。1月19日にあった都道府県対抗男子駅伝でも、ナイキの厚底を履く選手が続出。その効果もあってか、6チームが大会記録を更新した。テレビではピンクの厚底シューズが目立ち、かつては日本の二大巨頭とも言えたアシックス、ミズノのシューズを履く選手が激減した。

選手からは「自然と前に進む感覚がある」「疲れが残らない」と評判の一方、一部の指導者からは「マテリアル(物質)ドーピング」と揶揄する声も聞かれる。昨年はこの厚底を履いた男子のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が非公認レースながら、人類初の2時間切りを達成。今年に入り、ついには世界陸連がこの厚底シューズを禁止するという報道も出てきた。

井上大仁は厚底で2分速くなる?

3月にある男子の東京マラソンでは、最後の一枠を巡って再び厚底に注目が集まることになる。

大迫、設楽はもちろん、2018年アジア大会金メダリストの井上大仁(MHPS)もナイキの厚底で挑む。井上は昨年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ではアシックスのシューズを履いていた。いわばアシックスの「顔」とも言える選手だったのだが、昨年末からナイキに変更した。派遣設定記録(2時間5分49秒)を破って、五輪代表入りを狙うためである。

日本陸連幹部からは「井上が履いたら、自己ベストが2分速くなるのではないか」とも聞かれる。井上の自己ベストは、アシックスのシューズで出した2時間6分54秒。本当に2分も速くなれば、日本男子初の2時間4分台に突入することになるが、結果はいかに。