「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

東京五輪を狙う女子陸上界の「異端児」田中希実の可能性

2020 11/28 11:00鰐淵恭市
田中希実Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

同志社大3年生ながら豊田自動織機TC所属

陸上女子1500メートルと、非五輪種目の3000メートルの日本記録を持つ田中希実(のぞみ)は異質な選手である。

同志社大学スポーツ科学部に通う大学3年生でありながら、大学の部活動には所属しない。実業団チームではない豊田自動織機トラッククラブ(TC)に所属し、父親の指導を受ける。

大学、実業団で競技をすることなく東京五輪に出場すれば、さらに異例なこととなる。12月4日にある日本選手権で5000メートルの代表入りを狙う。

逃げ切りもできる、ラストも切れる

田中の走りは変幻自在だ。日本記録を2秒以上も更新する4分5秒27をマークした8月のセイコーゴールデングランプリ1500メートルではほかの選手の動きは一切無視。スタート直後から先頭を引っ張り続け、ラスト1周で後続を大きく引き離した。

「無我夢中でレースの記憶はない。自分の感覚に任せた」

7月に3000メートルで18年ぶりの日本記録更新となる8分41秒35をマークした時も先頭を引っ張り続けた。かといえば、集団の後方から切れ味鋭いスパートで抜け出す時もある。

先行逃げ切りも、集団での競り合いでも、勝てる走りができる。それが田中の強みでもある。

陸上一家のサラブレッド

田中を指導する父親の健智(かつとし)さんは元実業団選手で、福岡国際マラソンに2回出場した経験を持つ。母親の千洋(ちひろ)さんは市民ランナーながら、北海道マラソンを2度制したこともある。田中の強さは、両親を抜きには語れないだろう。

サラブレッドだからこそ、陸上に打ち込む機会に恵まれた。小学校6年生のとき、両親に連れられてオーストラリアのマラソン大会に行った。そこで、子ども向けの4キロのレースで優勝した。「のめり込むきっかけになった」と振り返る。

個人種目で勝負したくてクラブチームへ

高校は名門の兵庫・西脇工高に進学。早くからその実力は知れ渡っていた。卒業後は駅伝に縛られないため、大学に進んだもの部活には所蔵せず、クラブチームでの活動を選んだ。

人気が高く、大学や企業にとって宣伝効果が高い駅伝を、高校卒業後にしないという選択肢は、日本の陸上長距離界では異例である。あくまで個人種目で勝負することを選んだ。

その狙い通り、2018年にあったU20世界選手権では3000メートルで優勝。先行逃げ切りの作戦を取り、アフリカ勢を脅かせた。

「東京五輪に向けて自信になった」

昨年の世界選手権には5000メートルで出場し、決勝に進出。14位に終わったものの、当時の日本歴代2位となる15分0秒01をマークした。日の丸をつけ、着実にステップアップしている。

同郷の先輩・小林祐梨子と同じルートで東京五輪へ

800メートルから5000メートルまでをこなすが、主戦場は5000メートルになる。兵庫県小野市出身の田中にとって、同郷の先輩が進むべき道を示してくれている。

1500メートルの田中の前の日本記録保持者の小林祐梨子は田中と同じ小野市出身。小林は中距離で磨いたスピードをいかし、2008年北京五輪には5000メートルで出場した。

田中も「800、1500メートルを大事にしているからこそ、3000、5000メートルが速くなる」と考える。田中も5000メートルで東京五輪を狙う。

すでに五輪参加標準記録の15分10秒00をクリア。12月4日の日本選手権で優勝すれば、東京五輪代表に内定する。

1500メートルの日本記録を出したゴールデングランプリは国立競技場での開催だった。その時、こう語っていた。

「来年の東京五輪もここで開催される。今日みたいな走りが見せられたら」

そのチャンスをつかむ可能性は十分にある。

【関連記事】
15年間破られていない女子マラソン日本最高記録の変遷
100年で2秒短縮…陸上男子100メートル日本記録の変遷
陸上のオリンピック日本人女子メダリストを紹介