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PGAツアーとLIVゴルフ、深刻な対立構図から突如和解した理由

2023 7/5 06:00田村崇仁
グレグ・ノーマン,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

訴訟も取り下げ、共同で新会社設立

米男子ゴルフを運営する伝統のPGAツアーとサウジアラビアの政府系ファンドが支援する超高額賞金ツアー「LIVゴルフ」。2年に及ぶ対立が深刻化し、世界のゴルフ界はLIVに参戦したフィル・ミケルソン(米国)やダスティン・ジョンソン(米国)らトップ選手を巻き込んで大混乱に陥っていたが、6月6日、突如和解したニュースはスポーツ界を驚かせた。

両者の訴訟も取り下げられ、事業統合することで合意。欧州ツアーも含めて共同でビジネスや権利関係を扱う新会社が設立されることも発表された。これで米国と欧州ツアーは、事実上追放処分としてきたLIV参戦選手に関して今季終了後の復帰を容認する方針だ。

PGAツアーの公式サイトによると、PGAのモナハン・コミッショナーは「分断と混乱の2年間を経て、私たちが愛するゴルフにとって歴史的な一日になった。プロゴルフ界における最高の競争を促進すること、そしてゴルフの未来を確保し、推進することに全力を尽くす」とコメント。

潤沢なオイルマネーを背景に振興の世界ツアーを立ち上げたサウジ政府系ファンドのルマイヤン総裁は「LIVモデルがゴルフにポジティブな変革をもたらしたことは間違いない。私たちは、ゴルフがその歴史と伝統を維持しつつ、進化する機会があると信じている」との声明を出した。

LIV批判の急先鋒、マキロイも寝耳に水

それにしても突然の和解は、PGAツアーを主戦場に戦うトップ選手にとっても寝耳に水だった。

LIVゴルフは人権軽視が問題視されるサウジアラビアの政府系ファンドが支援しているとして、LIV批判の急先鋒だったロリー・マキロイ(英国)もその一人だ。

英BBC放送によると「単純に歓迎することはできない」とした上で「今でもLIVが憎い」と複雑な心境を隠さなかった。その上で「結局のところ、金はものを言う。統一され、財政的な未来も保証される。大局的に10年後を見据えれば、プロゴルフにとっていいことだとは思う」とも語った。

分断の両者、利害が一致?

では、これだけ対立してきたPGAツアーとLIVゴルフが一体なぜ統合にかじを切ったのか?

協力関係の詳細は明示されておらず、将来像は不透明な部分もあるが、利害関係がある意味で一致したとの見方が有力だ。

LIVゴルフの開幕シーズンは2022年10月に終了し、賞金トップのダスティン・ジョンソンは全8戦で約3560万ドル(約51億円)という破格の賞金を獲得した。3日間54ホールで予選落ちがなく、個人と団体で争う方式は娯楽性も高い。一方、人気や運営面で疑問視する声もあり、米メディアによると、放送権販売やスポンサー獲得で苦戦している側面も指摘される。PGAツアーは資金力の限界でLIVには太刀打ちできず、LIV側もPGAツアーと手を組むことで将来的な運営で利点があると判断したのだろう。

LIVゴルフに参戦してきた人気選手のセルヒオ・ガルシア(スペイン)は今回の合意を受け、関係が悪化していたロリー・マキロイと和解したことも明らかにした。

LIVゴルフの2年目となる2023年シーズンは米国、メキシコ、オーストラリア、シンガポール、スペイン、英国、サウジアラビアの計7か国で全14大会を実施。1大会で個人戦の優勝者は400万ドル(約5億7000万円)を獲得する。PGAツアーのメジャー大会、マスターズ・トーナメントを上回る額だ。

ゴルフ界を二分した争いは表面的に収まることになったが、選手や企業の間では電撃的な和解にまだ戸惑いも広がる。LIV最高経営責任者の元名選手グレグ・ノーマン(オーストラリア)は「旅は続く」と期待を込めたものの、両者のしこりは簡単に埋まらず、真の意味での統合実現にはなお曲折もありそうだ。

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