「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【スポーツ ? テクノロジー:第5回】

NTT西日本 視える化でゴルフの楽しみ方を変えるスマート光ゴルフ

ゴルフ

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NTT西日本のスマート光チャレンジ。イチロー選手が「さあ、行こうぜ!」と呼びかけるCMでご存知の方も多いかもしれません。ICT×お笑い、ICT×お化け屋敷、ICT×フットサルなど新しい技術を使ったユニークなイベントやサービスを展開しています。

今回はそのスマート光チャレンジのなかのICT×ゴルフ、スマート光ゴルフについてご紹介します。NTT西日本のテクノロジーでゴルフがどう変わるのか。企画、開発している担当の方にお話を伺いました。

【お話を聞かせてくださった方】

西日本電信電話株式会社 アライアンス営業本部 ビジネスデザイン部

オープンイノベーション推進室 室長

ビジネスデザイナー

中村正敏

・NTT入社後、1999年大手量販店・ISP・商社等の開拓し、全国代理店網を構築。任天堂等数多くの企業アライアンスを経て、 2009年「ひかりTV」「フレッツ・TV」などの映像サービ ス、2012年スマートTV事業の立上げに携わる

・アライアンス、新事業・新サービスの開発インキュベーションが専門

・一般社団法人「コトの共創ラボ」の設立に加わり、ハッカソン・ビジネスコンテスト・アクセラレータープログラムなどを多数プロデュースし、スタートアップ企業の発掘・事業化を推進

 

西日本電信電話株式会社 研究開発センタ

開発推進担当

大西裕太

・有明工業高等専門学校卒業

・平成22年4月 NTT西日本入社

 入社当初は、電気通信設備の保守保全に関する企画・マネジメント業務に従事し、業務効率化や災害対策等の新規施策立案・実行管理を実施

 平成27年から現職の研究開発センタにて、IoT/M2Mに資する新サービス開発業務を実施(バイタルデータを活用したスマート光チャレンジの取組み等)

・趣味:スポーツ観戦、お酒、サーフィン

■ICT×ゴルフとは?

――スマート光ゴルフとは、どのようなサービスなのかを教えていただけますでしょうか。

大西:ゴルフのプレイヤーに、心拍数等が取得できる特殊なウェア(C3fit IN-pulse:hitoe)を着用してもらうことで、プレイ中の緊張・リラックスといったメンタルのバランスが視える化されるサービスです。
ラウンド中には、スマホやタブレットでリアルタイムでプレイヤーのメンタル状態が表示されます。そして、ラウンド後には結果とアドバイスが出ます。

こちらがラウンドの際に着てもらうウェアです。
裏側の胸の部分にhitoe(NTT西日本と東レが共同開発した生体情報計測機能つきの素材)がついています。 これで心拍数を測ることができますので、直接肌に触れる形で着用してプレイしてもらいます。

ゴルフウェアを試着

金島:きつめですけど、圧迫感も違和感もまったくないですね。

大西:このウェアはコンプレッションが一番強いタイプなのですが、正確に測るためにはきつい方がいいんですよ。ただ普段の生活のなかではもっと使いやすいものを、ということで、現在メッシュのものやランニングタイプ、ポロシャツタイプなども検討中です。

hitoe

▲ウェア裏地。灰色の布の部分がhitoeという特殊な素材で、着用した人の心拍数を計測することができる。

金島:最近ウェアラブルというと時計やバンドタイプが多いところ、なぜウェアにしたのかなと思ったのですが。

大西:検討段階では、腕に付けるものはプレイ中に気になってしまうのではないかという懸念がありました。それから、このウェアの方がかなり精度が高く心拍などの数値を取れるんです。1秒間に25回のサンプリングで計測することができます。

金島:このウェアは購入することができるんですか。

大西:はい。ゴールドウィンから一般発売されています。普通に洗濯もできますよ。

中村:スマート光ゴルフのプランでは、ウェアは無料でレンタルしています。

――では、こちらを着てラウンドすると、どのようにメンタルの状態がわかるのでしょうか。

中村:ラウンド中はカートにタブレットがありますので、その画面にメンタルバランスが表示されるようになっています。ご自身のスマホにアプリを入れて見てもらうこともできます。

タブレット画面個人

中村:左側の丸い部分がメンタルバランスです。円の中の赤が交感神経(緊張している・ストレスを感じている)、青が副交感神経(リラックスしている)を表します。右側はそのプレイヤーのメンタルの「元気度」であるトータルパワーを示します。

――プレイヤーは自分が緊張しているかリラックスしているかを知ることで、緊張を和らげようとか、逆にリラックスしすぎているから少し引き締めようと考えることができる、と。

金島:リアルタイムでのアドバイスは出ないんですか。

中村:アドバイスに関しては、その場面場面にあった「水を飲んで落ち着きましょう」などのアドバイスをタイムリーに表示しています。

大西:人それぞれにあったアドバイスの仕方は、もうちょっと研究していかないといけないところです。

中村:後は、ラウンドが終わると、1から18ホールの緊張・リラックス状態を表した折れ線グラフが出てくるようになっているんですよ。数字でパッと言われてもあまり面白くないんですけど、ラウンドを振り返ったときに自分のスコアと緊張状態などを皆で見てみると、これが結構面白いんです。

タブレット画面トータル結果

■メンタルを視える化するテクノロジーとは

――そもそもスマート光ゴルフを開発するきっかけは何だったのでしょうか。

大西:hitoeの活用案を検討するなかで、運動量の視える化(スマート光フットサル)を実施しました。この取り組みを通じて、より解析に力を入れた企画として、メンタルバランスまで可視化するスマート光ゴルフの企画実施に至りました。

――プレスリリースで拝見しましたが、愛知県立大学が技術協力されているという心拍変動量解析手法とは、どのようなものなのでしょうか。

大西:hitoeによって心拍数の変化を捉え、この変化から自律神経の活動を推定します。 心臓の働きは自律神経が制御しているので、心臓の動きを把握することで、自律神経の活動が推定できると医学的にも立証されている解析手法です。

この推定結果から、緊張、リラックスのバランスが視える化できます。心拍数の変化から自律神経の活動を推定する技術は、10年以上前からありますが、hitoeという着る心電波形計測センサーが開発されたことで、スポーツなどをしながら手軽に計測できるようになりました。

話す大西さん

――こちらのサービスの開発で大変だったことはどういったところですか。

大西:実際にプレイされる方のご意見を伺いながら、どのタイミングでメンタルが見たいか、どのような使い勝手なら苦にならず使ってもらえるかなど、世界でも類を見ない取り組みだけに、利用者目線でのUX設計に苦労しました。

リリース後もマイナーチェンジを繰り返しています。
例えばトランスミッターの電源が落ちない設定に変えて、電源のON/OFFを気にせずプレイしてもらったり、メンタルバランスだけでなくトータルパワーを表示して、自律神経の活動における年齢レベルを表示してより楽しんでいただいたり。ハーフが終わった時点でそれまでの状態を時系列でみられるようにして、お昼休みのコミュニケーションの一助にしてもらったり。

また、プレイヤーに提供するゴルフ場スタッフの運用のしやすさなど、こちらもUX設計に苦労しており、秋に向けての大規模な改修を検討中です。

――プレイした方のデータは蓄積されているのでしょうか。

大西:はい。現在もデータは蓄積されており、このデータの蓄積からトータルパワーによる年齢推定レベルを実装したりと既にビッグデータ解析といえる取り組みを実施しています。

金島:他のラウンドした方のデータは見ることができるんですか。

大西:仕組みとして作ることは可能ですが、現在は公開していないです。

――ゴルフの前にスマート光フットサルを紹介されていますが、フットサルのほうは「ハッスル度」として心拍数や走行距離の計測がされています。これはスマート光ゴルフと同じ仕組みなのでしょうか。

大西:ハッスル度は、心拍数と走行距離、移動速度、消費カロリーなどから算出しています。ゴルフに比べて汎用的なデータといえるため、他のスポーツへの応用も検討中です。

■新しいサービスになる面白いものを作り出す

中村:スマート光チャレンジでは短期的なKPIに縛られていなくて、世の中で面白いなと思ってもらえるものや、ICTの力を使って人の役に立つようなものを作っていきたいと考えています。
ただ技術的なところはバックボーンがないといけない。それで研究者である彼ら(大西さん)が技術面で協力してくれています。

スマート光ゴルフについて言うと、「なんでゴルフやねん?」と思われるでしょう?
もともとゴルフはメンタルのスポーツと言われていますよね。我々が(メンタルを知るための)バイタルデータを測れるところはまだ一部に過ぎず、おそらくかなり多くのいろいろな変数で、ゴルフのプレーは決まってくるんです。とはいえ、それを精緻にアスリートレベルのスポーツ科学のところまでいくには、まだハードルが高い。

ですから、まずはエンタメとして楽しむところから始めましょう、と。そうやって始めるとパートナーさんや仲間が集まってくるじゃないですか。そういうのも狙いの一つなんですね。スポーツ科学まではまだまだハードルがありますが、皆さんが寄ってきて新しいことをすると、だんだん近づいていくはずなんです。そういう風に考えています。

・・・まあ本音を言うと、私がゴルフが大好きだったからなんですけど(笑)。

笑う中村さん

――(笑)。ではスマート光ゴルフのサービスは、まだこれから開発が進んで新しくなっていくということですね。

大西:そうですね。まだ第一段階です。お客様の意見でこういう機能が欲しいとか、横田さん(監修の横田真一氏)にも色々お聞きしながら随時対応しています。

――最後に。このスマート光ゴルフで使われている技術は、今後他のスポーツ、教育、ビジネスなどの分野でも活用されていくのでしょうか。具体的な展望などあれば教えてください。

大西:学校の部活動で運動強度を可視化し、不慮の事故の防止などに活用できると考えています。また、トップアスリートのトレーニングの際に、メンタルが可視化できるツールとしての提供も検討中です。

中村さんと大西さん

中村様、大西様、取材へのご協力ありがとうございました。

【参考情報】
スマート光ゴルフは滋賀県の瀬田ゴルフコースで実際に体験することができます。
詳細はスマート光ゴルフのWEBサイト(https://www.ntt-west.co.jp/ikouze/golf/)にてご確認ください。


(取材:金島弘樹、財部友希/文・写真:SPAIA編集部)

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