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全豪オープン前哨戦としてのATPカップの不安

2020 1/27 18:11橘ナオヤ
スペインのラファエル・ナダルとセルビアのノヴァク・ジョコヴィッチⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

第1回ATPカップは成功も不安は残る

1月12日、今年初開催となったATPカップが幕を閉じた。決勝戦はノヴァク・ジョコヴィッチ率いるセルビアとラファエル・ナダルのスペインの顔合わせ。ジョコヴィッチがナダルを下し、セルビアが記念すべき最初のタイトルを手にした。ファンも盛り上がり、まずまずの結果を納めたと言えそうだ。

ただ、既にジョコヴィッチやナダルがコメントしているように、第1回大会を終えての展望は、事前に浮上していた懸念がより鮮明になっている。端的に言えば、問題は二つ。デビスカップとATPカップという、国別対抗の大会が連続する問題、そしてもう一つが、ツアー最序盤の前哨戦として、この”ワールドカップ型”大会が相応しいかという問題だ。前者の問題はこれまでも既に多く議論されてきた。そこで今回は、二つ目の問題、前哨戦としてのATPカップについて考える。

“ワールドカップ型”の大会

まずATPカップがどういう大会かおさらいしよう。2020年の第1回大会は、1月3日~12日の日程で行われた。つまり、シーズンの開幕戦であり、1月20日からの全豪オープンの前哨戦という位置づけだ。この大会を催すため、ATPはブリスベン国際を終わらせた(WTAのブリスベン国際は存続)。

ATPカップは、数少ないチーム戦の大会で、ATP主催のものとしては現在唯一のもの。参加国は24カ国。6つのグループに分かれてラウンドロビンを戦い、各組首位と2位のうちマッチパーセンテージの高い2チームが決勝トーナメントに進出する。会場は3か所。オーストラリア西部のパース、東部のブリスベン、そして南東部のシドニーだ。各会場に2グループずつが割り振られラウンドロビンの試合が行われる。

9日間で8試合という高負荷

第1回大会を終え、この開催のタイミングやこの大会の形態が問題となる。ひとつは短期間に集中する試合の多さだ。

決勝まで勝ち進んだセルビアとスペインの両エース、ジョコヴィッチとナダルはこの9日間でシングルス6試合とダブルス2試合を戦った。ベスト4のロシア、オーストラリアのエース、アレックス・デミノーとダニル・メドベージェフも、準決勝までに計6試合を戦っている。

ATP大会のために終了したブリスベン国際(ATP250)の場合、戦うのは最大で5試合だった。ATP250の大会の場合、ランク上位の選手は1回戦免除のシード権を得るため、シード選手が戦うのは最大4試合。つまりATPカップはこれまでより試合数が多い。さらにシングルスとダブルスを戦った場合、一日に2試合を戦うことになる。試合間隔の短さと多さ、それがダブルヘッダーともなれば、かかる負担は大きい。

3000kmの移動という負担

また、“ワールドカップ型”のデメリット、会場移動がつきまとう。会場が3カ所に分かれているために、ラウンドロビンの会場がパースだったチームは、決勝トーナメントに進出すると、3000kmの移動を余儀なくされる。今回はスペインとロシアがそうだった。

大会6日目までラウンドロビンの試合が行われると、休みなく翌7日目にはブリスベンで準々決勝が行われた。スペイン、ロシアとも試合の間に1日があったが、3000kmの移動は通常であれば別の大会に臨む際の移動距離だ。

さらに、オーストラリアという大陸の西から東まで移動するため、時差は3時間ある。距離と時間、双方で選手はコンディション調整を余儀なくされる。またこの負担が一部チームにだけかかるため、不公平感は否めない。かといって全チームに長距離移動を課すわけにもいかないだろう。

乱れるルーティン

さらに、チーム戦が普段のツアー大会と大きく異なるのは、1日の過ごし方だ。通常のツアー大会の場合、選手たちは個々のルーティンをこなしながら試合に臨む。前日練習、当日試合前のウォームアップ、食事、固有のルーティン。そして試合があり、試合後にはクールダウン、マッサ―ジやストレッチなどのルーティンがある。

だがチーム戦の場合、試合前後はウォームアップやクールダウンに向かうものの、それ以外は応援などもあり、いつも通りの過ごし方はできない。さらに上述の長距離移動がある場合、ルーティンが乱される。

前哨戦として相応しいか

繰り返すが、初開催のATPカップはまずまずの結果を納めた。総額1500万ドルという高額な賞金、さらにATPランキングポイントという選手に対するインセンティブもある。だが、ツアー開幕戦、そしてグランドスラムの前哨戦としては消耗が大きい。もちろん、数をこなして調子を上げる選手もいるので、ただスケジュールだけをみて負担の大小を語ることはできない。

それでも、ツアー早々にルーティンとコンディションが乱される懸念もあるため、今後有力選手が大会参加を敬遠する可能性もある。同じ国別対抗戦であるデビスカップとの区別化、あるいは統合といった課題とともに、この時期にATPが行う大会として、このフォーマットが果たしてふさわしいものなのか、改善を期待したい。