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錦織の四大大会ベスト8を阻む体力消耗 過去の試合時間にBIG4と明らかな差

2019 7/4 15:00橘ナオヤ
ノヴァク・ジョコビッチⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

グランドスラムで重要になるのは試合時間

2019年シーズンもすでに2つのグランドスラムが終わり、3つ目のグランドスラム、ウィンブルドンが開幕した。前半戦のグランドスラムでは、全豪をノヴァク・ジョコヴィッチが、そして全仏をラファエル・ナダルが制した。グランドスラムのタイトルは、この二人とロジャー・フェデラー、アンディ・マリーを合わせた“BIG4”により、15年以上にわたってほぼ独占されてきた。なかでもウィンブルドンは、2003年大会以降、”BIG4”以外の優勝者がいない。

4人がいずれも30代に入り、若い世代も優勝争いに加わり始めている。ただその世代を代表するドミニク・ティーム、アレクサンダー・ズベレフ、そして錦織圭といった選手は、大会第2週の常連となっているものの、いまだタイトル獲得には至っていない。決勝やベスト4に進むことができても、そこでは”BIG4”が立ちはだかり、突破することができないケースが多い。

“BIG4”と彼らの間には実力、経験など、様々な違いがある。その中で、グランドスラムという舞台のことを考えると、これらの大会に挑むために重要になるのが試合時間だ。

グランドスラムという長丁場

そもそも、グランドスラムとはどういう大会か。1月の全豪、5-6月の全仏、6-7月のウィンブルドン、そして8-9月の全米と、年に4回行われる最高峰の大会なのはご存知の通りだ。いずれの大会も約2週間かけて行われ、参加選手数は男子シングルスだけで128名。つまり優勝するためには、決勝戦を含めて7試合を戦う必要がある。

さらに試合形式は5セットマッチと長丁場だ。一方的な試合展開なら2時間以内で片が付くこともあるが、ストレート勝ちでも多くの場合2時間を超える。フルセットにもつれると3時間超えは普通のことで、長いものでは5時間に及ぶこともある。

こうした試合が男子シングルスだけで127試合ある。そこにダブルスや女子、ミックスダブルスも同時期に行われるのだから、大会スケジュールは過密だ。自分が戦う試合の展開はもちろん、前の試合が長引いたり、天候不順で中断したりといった外部要因によって翌日に順延することもある。そうなれば勝利できても次の試合までの時間が無くなり、どんどん消耗していく。

優勝を目指す選手たちは、1日当たりの試合数が多い第1週ではできるだけ短時間で勝負を決め、強敵と戦う第2週に備えて消耗を少なくしたいところだ。

序盤から主導権を掴むことで体力温存

トップランカーたちは、第1週から4回戦までの試合で、余計な消耗を避ける戦い方をしている。それは個々のプレーを効率的に省エネでいくということではなく、試合のペースを早いうちから掴んで、短い時間で試合を終わらせることを意味する。

ポイントを取れるサーブを決めること、効果的にブレークを奪うことを徹底し、3セットで試合を決める。7割以上のファーストサーブ決定率、アンフォーストエラーの数が少ないこと、これは最低条件と言えるだろう。

例えば大ベテランと言える域に入ったフェデラーは、20代の頃に比べサーブ&ボレーや早めのパッシングショットが多くなり、ロングラリーよりも早期に試合を決める戦い方をするようになった。

ナダルやジョコヴィッチの場合、第1週の試合では第2週にピークが来るように自身のフォームを上げていくプレーをするのだが、試合序盤から試合のペースを掴むため、結果として短時間で試合が終わり、体力を温存したまま大会を勝ち進むことができる。

準々決勝や準決勝で体力が残っていない錦織やティームとは、大事な第2週を迎える頃でフォームが全く違うのだ。

ジョコヴィッチと錦織では試合時間の差は2倍

例えば全仏のデータを見ると、1~4回戦の平均試合時間に明らかな違いがある。優勝したナダルは4試合の平均が2時間17分。落としたセットはわずか1つ。ジョコヴィッチに至っては1セットも落とさず、平均試合時間はわずか1時間41分だ。フェデラーも平均1時間47分という短時間で試合を終えている。

一方、錦織の全仏1~4回戦の平均試合時間はなんと3時間20分。ジョコヴィッチの2倍かかっている。2試合でファイナルセットまで戦っているため、これだけ試合時間がかかってしまう。ファイナルセットの勝率はATP随一と称される錦織。一試合を勝つことを考えれば素晴らしい勝率だが、大会で勝つことに主眼を置くと、それが必ずしもタイトルに結びついていないことがわかる。

準決勝のナダルは錦織との準々決勝で3-0(6-1,6-1,6-3)と圧勝。疲労困憊の錦織と体力十分のナダルの試合は、1時間51分という短時間で終わった。

4月以降調子を上げた錦織は、ファーストサーブの確率が60~70%まで上がっていたが、全仏でのナダル戦は44%まで確率が下がっていた。さらにアンフォーストエラーの数も激増。ナダル得意の全仏の地の試合ではあったものの、この試合に至るまでに錦織は体力を使い果たしてしまったのは、試合内容を見ても明らかだ。

日本人としては錦織にグランドスラム優勝を果たしてほしいが、そのためには第1週で毎試合3時間もかけることなく勝ち上がる戦い方を身につけなければいけない。

7月1日(日本時間2日)の錦織のウィンブルドン初戦はストレート勝ちで2時間10分とまずまずの出だし。体力を温存し上位進出なるか。