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今年の青学はタイム差以上に強い 地力の差を見せつけた第50回全日本大学駅伝①

2018 11/15 11:00鰐淵恭市
駅伝,ⒸShutterstock.com
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勝負を決めたのは主将

50回目の節目を迎えた全日本大学駅伝(11月4日)は青山学院大の2年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。これまで7度の出場で優勝1度と、青山学院大にとって「鬼門」だった全日本で圧勝し、史上初、2度目の学生駅伝三冠に王手をかけた。

8区間106.8キロを5時間13分11秒で走り抜き、2位東海大に2分20秒という大差をつけての勝利は、記録以上に他校をねじ伏せ、力の差を見せつけるものだった。今大会は区間の距離変更があり、17.6キロと長距離区間になった7区における展開が、青山学院大にとっては願ってもない形となった。

この区間を任されたのは、2年前のMVPである主将の森田歩希(4年)。外さない走りができる上に長い距離にはめっぽう強く、過去の3大駅伝では区間賞と区間2位をそれぞれ2度獲得している。青山学院大の原晋監督は、レース当日に3人のメンバー変更を行った。その1人がこの7区の森田だ。満を持してエースを配置した区間で、勝負を決める瞬間がやってきた。

森田がたすきを受けた時、トップの東海大とは11秒差の2位だった。1万メートルの自己記録だけを見れば、東海大7区の湊谷春紀(4年)の方が3秒ほど速い。だが、17.6キロの長丁場で力の差は歴然だった。

森田は冷静に3キロ付近で湊谷に追いつくと、その後は勝機をうかがうように並走を続けた。動いたのは、「(湊谷が)呼吸も動きもきつそうだった」と感じた9キロ付近。森田は一気にギアを上げ、約1キロで湊谷と20秒ほどの差を広げた。

森田の快走は最終8区へたすきをつなぐ第7中継点まで続き、2位東海大と1分58秒の差をつけた。アンカーの梶谷瑠哉は1万メートルで28分43秒76のスピードを持ちながら、ハーフマラソンの日本学生選手権で優勝したスタミナもある。一方の東海大のアンカー湯沢舜は1万メートルの自己ベストが29分13秒44。森田がアンカーにたすきを渡した時点で、雌雄はほぼ決した。

事実、梶谷はさらに東海大と差を広げ、笑顔でゴールテープを切り、今大会のMVPには、逆転優勝の立役者となった森田が選ばれた。

誤算があっても勝てる、それが今年の青学

「7区での逆転」ということだけを考えれば、青山学院大の圧勝とは言えないかもしれない。だが、想定通りにレースが運ばなかったとしても、ひっくり返すだけの力がある。それを見せつけたのが今回の全日本だった。

戦い方の定石が先行逃げ切りである駅伝。追いかける方は力むあまりにオーバーペースになり、さらに差を広げられることが多いからこそ、序盤でリードする方が有利である。10月の出雲駅伝でこの定石を実践した青山学院大は、1区途中でトップに立って以降、トップを譲ることなく優勝を決めた。

しかし今年の全日本では、その定石通りの走りができなかった。1区こそ、2年前の全日本5区と昨年度の箱根の山下りの6区で区間賞を獲得した小野田勇次(4年)が、区間3位の2位(トップがオープン参加の日本学連選抜なのでこのような順位になる)でたすきをつないだものの、2区は青山学院大で5000メートルの記録を持つ橋詰大慧(4年)が伸びなかった。途中、東海大に抜かれる区間5位の走りでトップの東海大に4秒差の2位でたすきをつないだ。

原監督が勝負のポイントにも挙げていた3区は「3本柱」の1人、鈴木塁人(3年)だった。その鈴木は区間3位と悪い走りではなかったのだが、トップの東海大に差を37秒に広げられた。今年の学生駅伝は青山学院大、東洋大、東海大の3強と言われるが、そのライバルの後塵を拝する展開。指揮官にすれば、序盤の走りは誤算だったはずだ。

だが、青山学院大には定石通りの展開に持ち込めなくても、それを覆すだけの選手層がある。もちろん、逆転劇を演じたのは7区を走ったエースの森田だが、その逆転劇を演出したのは、5区の吉田祐也(3年)と6区の吉田圭太(2年)というつなぎ区間の2人だった。(続く)