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スペイン代表監督が1年で3度目の交代 真価問われる新指揮官モレノ氏

2019 7/3 15:00Takuya Nagata
サッカーボールⒸSPAIA
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就任から1年足らず、チームづくりは順調も「全う出来ない」

スペイン代表のルイス・エンリケ監督(49歳)が家庭の深刻な事情により辞任したことを受け、スペインサッカー連盟(RFEF)は、助監督だったロベルト・モレノ氏(41歳)の監督昇格を発表した。

就任からわずか11カ月で無敵艦隊を降りたエンリケ氏。ネイションズリーグでは、準決勝進出を果たすことは出来なかったが、重要視される欧州選手権(ユーロ)予選では目下全勝でグループFを独走している。

3月のマルタ戦の直前にチームを離脱し、モレノ氏が暫定で指揮を執る事態になったが、エンリケ監督は遠隔で練習映像をチェックし、チームも選出した。

その後、エンリケ氏の進退は軽率に結論を急ぐべきではないとして、スペインサッカー連盟と話し合いが続けられてきた。しかし、ここにきて家庭内の事態がさらに深刻化したとして、正式に監督降板することをエンリケ氏が決断した。これにより、3月のノルウェー戦が、直接指揮した最後の試合となった。

RFEFスポーツディレクターのホセ・モリナ氏「バルセロナでミーティングを行った際(5月)は、結論を急がずに様子を見ようということでしたが、この数日で変化がありルイスは、自身が望むような形で仕事が全うできないとして、代表を離れる決断を下しました。」

エンリケ氏は声明で「3月から任務を平常に全うすることに支障をきたしているため」と辞任理由について説明した。

そしてRFEFのルビアレス会長も、「ルイス(エンリケ氏)の決断を我々も尊重します。」と承諾した。今後については、「人的要素は非常に重要です。ロベルト(モレノ氏)と話し、残留を望まないなら代表を去るという申し出がありましたが、これが最善のソリューションだと考えています。このコーチ陣は、非常によく機能しています。」と見解を述べた。

モレノ氏の契約期間は当初と変更なく来夏まで残っている。

ルイス・エンリケの懐刀から名監督に開花なるか

スペイン代表は、2018年ロシアワールドカップ本大会の試合のわずか2日前にフレン・ロペテギ監督を解任した。契約期間が複数年残っていたにもかかわらず、何の相談もなくレアル・マドリーと契約し、クラブから監督就任が発表されたためだ。選択の余地はほとんどなく、当時スポーツディレクターだったフェルナンド・イエロ氏が緊急登板した。

そのイエロ氏もロシアW杯決勝Tでの初戦敗退を受け解任。スペイン代表の再建を託されたのがエンリケ氏だった。

新監督に就任したモレノ氏は、選手としての実績はあまりなく、若くして指導者に転身し、エンリケ氏に見いだされFCバルセロナでスカウトを務めた。主要なチームでの監督経験はないが、その後、ローマ、セルタ、バルセロナ、スペイン代表で9年間ルイス・エンリケ監督のアシスタントを務めた。名はないが、実力派の参謀といったところだ。

モレノ新監督は、記者会見で「これは、甘いと言うよりは苦い形での就任です。望む様な形で機会が訪れないこともあります。スペイン代表監督になるのは、夢でしたが、難しい状況です。」とエンリケ氏に最大限の敬意を払うコメントを発した。

「責任重大ですが、名誉な事です。恐れているのは、ルイス・エンリケが直面するようなコントロールできない物事だけです。」と続け、代表指揮に対する不安を完全否定した。

今回、スペインサッカー連盟は、エンリケ氏がつくったチームの基礎を、モレノ氏が継承し積み上げていくことを選択した。モレノ氏は、主要チームの監督就任は初めてで、器は未知数。今後スペイン代表という世界屈指のチームでモレノ氏の力量が試されることになるのは、何ともスリリングだ。

モレノ氏「ルイス・エンリケと9年世界のトップレベルで仕事をしてきました。経験はあります。スペインが欧州選手権に優勝すれば、経験があるかないかということは、皆忘れるでしょう」

試金石のスウェーデン戦は完勝

モレノ新監督は、名門バルセロナ大学で国際貿易を学び、プロコーチになる前は大手銀行に勤務。分析力には長けており、フットボール頭脳は申し分ないだろう。あとは現場の最高責任者としても、タレント溢れる選手達の人心を掌握し、チームを一つにするカリスマになることが出来るかどうかだ。

モレノ氏は、エンリケ監督の指示のもと、欧州選手権予選3試合を暫定指揮したが、現場にいずして何から何までチーム管理が出来るほど、サッカーは単純な競技ではない。モレノ氏は「複数の決断を自分で下す必要がありました。」と振り返る。

その3試合のうちマルタとフェロー諸島は、実力的にスペインより落ちるが、強豪国でグループ2位のスェーデンとの一戦は、今振り返れば、試金石になる試合だった。

試合前には、レアル・マドリーで不遇のシーズンを過ごしたイスコを大絶賛し、先発フル出場させた。普通ならクラブで結果を出した選手が、代表で起用されるという流れだが、自分の目でしっかり選手を見定め、確固たる信念を持ってチームづくりすることを示した。

グループの大一番となる試合でスペインは相手を圧倒的に支配し3-0の完勝。指揮官不在の中、選手たちは、驚くほど落ち着き払って試合をコントロールした。

戦場となるスタジアムの雰囲気をコントロールすることは、現場にいる人間にしかできない。重圧のかかったスェーデン戦で、選手達の平静を保った仕事ぶりは、ロベルト・モレノ氏への信頼が既に生まれていることを物語っているのではないだろうか。