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サッカー日本代表がCL覇者チェルシーから学ぶべき3つのポイント

2021 6/3 11:00桜井恒ニ
CL優勝したチェルシーⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

中央ライン盤石のチェルシー、相性悪かったシティ

5月29日(現地時間)にポルトガルで開催されたチャンピオンズ・リーグ(以下、CL)の決勝は、チェルシーがマンチェスター・シティに1-0で競り勝ち、9シーズンぶり2度目の優勝を飾った。

直近2試合の直接対決でチェルシーに敗北したシティは、トップ下にケヴィン・デ・ブライネを配置。さらに、ボランチに守備の名手フェルナンジーニョらではなく、リーグ13得点を叩き出したイルカイ・ギュンドアンを配置。中央エリアの攻撃に厚みを持たせる賭けに出た。

シティの攻撃は、デ・ブライネが攻撃の大黒柱。決勝では、いかに中央のデ・ブライネに良い形でボールを渡すかがカギだった。

一方、チェルシーのセンターラインは、稀代の守備的ボランチであるエンゴロ・カンテと、名センターバックのチアゴ・シウバが陣取る。チアゴ・シウバが負傷退場した後も、代わりに出場するアンドレアス・クリステンセンが好プレイを見せた。この中央ラインの固い守備はシティにとって相性が悪かった。

デ・ブライネは良い形でボールを持てず、ギュンドアンも効果的な働きがほとんどできなかった。サイドもスターリングとマフレズが封じられ、シティは90分間0点に抑えられた。

サッカー日本代表の森保一監督は昨シーズン、同じCLで優勝したバイエルンに学ぶと発言していた。しかしバイエルンは、要所で個人技とフィジカルに長けた選手が配置され、一朝一夕で真似できる戦い方ではない。むしろチェルシーの戦い方のほうが、日本代表の気質に合っているだろう。

ポイント1:守備の可変システムと規律の高さ

チェルシーは、29日の決勝で3バック(3-6-1)を採用した。敵に押し込まれたら、左右のウイングバックが下がって5バックに切り替わる可変システムだ。スターリングとマフレズが両サイドから攻めあぐねた要因の一つは、チェルシーがすぐさま5バックを敷いてサイドのスペースを消したためだ。

森保監督も、形は異なるが同じ3-6-1の3バックにこだわりがある。サンフレッチェ広島時代のみならず、日本代表でも2020年10月のカメルーン戦で冨安建洋、吉田麻也、酒井宏樹の3バックを試していた。

チェルシーは攻撃時は3バック、守備時は必ず5バックになるなど約束事が徹底され、中央がガラ空きになる場面はほぼ皆無だった。

規律の高さは日本代表も引けを取らない。過去にはフィリップ・トルシエ元日本代表監督が導入した守備戦術「フラットスリー」の事例もある。一定の約束事を決めてしまえば、日本代表も実践できる可変システムだ。

ポイント2:1トップのオトリの動き

チェルシーは、1トップにティモ・ヴェルナーを置いた。ヴェルナーは「点が取れない」と批判にさらされることもあるが、動きは秀逸だ。

CL決勝でも前線でボールキープして、味方の攻め上がりをサポートする場面が少なくなかった。得点に結びついた場面でも、ヴェルナーが左のスペースへ走り込んで敵を引きつけて(デコイ・ラン)シティの守備陣形をずらす。ヴェルナーがオトリになって作り出したわずかな隙間に走り込んだカイ・ハフェルツがフリーになり、得点を決めた。

日本代表では、1トップを大迫勇也が担う。ボールキープは定評があるが、ヴェルナーのように前線でデコイ・ランの動きを取り入れれば、中盤の選手たちがペナルティエリア付近で前を向いてボールに触る機会ができる。日本代表の得点パターンを一つ増やせるかもしれない。

ポイント3:カンテに学ぶ穴埋め力と勤勉走り

最後のポイントは、「地球の3割をカバーする」とジョークも飛ぶカンテの動きだ。

圧倒的なスタミナで守備のテリトリーが広く、危険察知能力とファウルになりにくいクリーンなボール奪取能力を兼ね備える。CL決勝でもデ・ブライネに有効なロングシュートは全く打たせず、ピンチの時には5バックのライン近くまで下がって6バックに。中盤ではリンクマンとしてパスを簡単にはたき、前にスペースがあればドリブル。決定機にはペナルティエリアに侵入し、たとえボールは来なくとも、オトリになって敵DFの間隔を広げる。文字通り縦横無尽にピッチを走り回り、この試合のMOMに輝いた。

日本代表が3バックを敷くと、左右のウイングバックは伊東純也や原口元気など攻撃的な選手が入り、攻守のバランスが中途半端になりがちだ。

しかしチェルシーは、カンテが守備・中盤・攻撃参加の3役をこなす。そのため、ウイングバックが守備に専念しやすい(カンテがいることで強靭な守備陣形と厚みのある攻めが成立する)。

カンテのマネを1人でできる選手は、世界にもそうそういない。とはいえ、カンテのように大事な局面で穴を埋める必要はある。現代サッカーにおいて、特に中盤は守備・攻撃両方への参加が大切だ。

たしかに、選手1人でカンテの仕事を丸々請け負うのは難しい。それでも、各選手が1回でも2回でも多く賢く走って攻守でスペースを埋めれば、カンテを擁するチェルシーのような機能的なサッカーに近づける。ひいては、規律や集団行動を重んじる日本人に合ったサッカーを見出すヒントになるのではないだろうか。

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