「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

苦境に立たされる久保建英の打開策は?ヘタフェは空中分解寸前

2021 2/19 11:00桜井恒ニ
ヘタフェの久保建英Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

ボルダラス監督の意向と裏腹 チーム改革に失敗

冬の移籍で久保建英とカルレス・アレニャが加入したヘタフェは、すぐさま2試合勝利したものの、その後は強豪相手の対戦が多く4敗1分。直近3試合は枠内シュート0本という結果に終わっている。

ホセ・ボルダラス監督は今冬、久保とアレニャを軸にチーム改革を図った。中盤のアレニャや久保を経由して確実にゴールへ迫るポゼッションサッカーを試みた。

しかし、相手にボールを持たせてカウンターを狙うスタイルに慣れきったヘタフェのCBやSBは、落ちついてビルドアップができない。敵にプレッセ―シャーを受けると「中盤でパスを取られるよりマシ」と考えてか、以前のように、すぐ中盤を省略して前線へ意図のないロングパスを放り込んでしまう。

ヘタフェにはボールキープできるFWもいないため、パス成功率は低くなる。そして敵がボールをキープしたら、前線からプレッシャーをかける。ショートカウンターを恐れて相手もロングパスが増える。

結果、2月14日のレアル・ソシエダ戦のDAZN実況を担当した桑原学アナウンサーが表現したごとく「相手を道連れにする」形で、両チームともパス成功率が下がり、試合全体がカウンター重視のリアクションサッカーになりがちだ。これでは、ポゼッションサッカーを得意とするアレニャと久保が活きない。

従来の強固な守備力をキープしつつ、中盤の新戦力を活用して得点力をアップさせる。それがボルダラス監督の理想だったかもしれない。

だが現状は、守備陣と中盤の意図が噛み合わず、ポゼッションサッカーなのかリアクションサッカーなのかどっちつかずの状態だ。監督と新加入選手、従来から在籍する選手の3者間で混乱が起きているようにすら感じられる。

長所と逆…競り勝つパワーを求められる久保

ボルダラス監督は会見で最近、控えに回した久保にフィジカルの強さを求めている。一口にフィジカルと言っても、そのワードの背景にはスプリント力、持久力、体の強さ…など様々な要素がある。

現在のヘタフェはロングパスが多く、ボールがラグビーのごとく頭上を飛び交う。地上でも球際の競り合いが激しい。これは、ヘタフェが従来から展開してきたリアクションサッカーに起因する。相手にボールを持たせ、激しい守備でボールを奪い取り、カウンターで奇襲する。それがヘタフェのリーガでの生き残り戦略だ。

ボールを制するには、敵に押し負けない筋力や空中戦に勝つジャンプ力が求められる。欧州では身長が低い部類に入り、年齢的にも体ができ上がっていない久保が苦手とする分野だ。

久保自身、プロトレーナー・木場克己氏と行なっている長期的なフィジカル強化プランがあるとされる。ここで無理にヘタフェ仕様の肉体改造を行えば、ストロングポイントであるドリブルのキレが失われたり、怪我につながったりする恐れもある。慎重な判断が必要だ。

アレニャと久保のリズム狂わせる“喧嘩サッカー”

アレニャと久保の理想は、バルサのように流れるパスワークでボールをつなぎながらリズムを作ることだ。しかし、ヘタフェは前述の通り空中戦が多くてボールが落ちつかない。

また、相手にボールを取られるとファーストDFがすぐ取り返しに行く作戦を取っており、これがリーガ屈指の激しいプレッシャーだ。ファウル数は1試合20回以上にのぼる時もある。

ヘタフェに刺激されて相手もファウルが増え、試合は喧嘩サッカーになってしまう。そうしてファウルで試合が度々中断され、ボールがなかなか回らない。

これではアレニャと久保は、リズムをつかむのも難しいだろう。加えて、2人がこの従来通りの喧嘩サッカーにあまり参加しないため、中盤で守備の激しさが失われた。ボルダラス監督の言うとおり、すべてをこの2人の責任にできないが、ソシエダ戦の前に3試合10失点とチームの守備力低下につながったことは間違いない。

久保はビルドアップへの参加が必要か

冬の移籍期間が終わった今、ヘタフェは新戦力を補充することはできない。そこで欧州メディア界隈では、チームに大手術を行うべく、ボルダラス監督の解任説も囁かれている。

この状況下で、久保はどうすればいいのか。

マジョルカ時代のようにサイドに張れば、いつもの2人3人に囲まれる鳥かごディフェンスに見舞われる。そもそも、今シーズンは後方からの縦パスをカットされる場面も多く、効果的とは言えない(久保が最近、中央に絞る動きを見せている理由の一つでもある)。久保はさらなるポジション修正の必要に迫られるだろう。

例えばソシエダ戦では、アレニャがかなり後方に下がってビルドアップに参加する場面も見られた。久保も、ボールの受け手ではなく、現ポジションからボランチの位置まで下がってビルドアップに参加し、ボールの出し手になる方法がある。ペナルティエリアから遠くなる分、ゴール・アシストの可能性は低くなる。あるいは一列上げて前線に顔を出し、ボールの奪い合いによりコミットする手もある。

いずれにしても、久保の理想のスタイル、得意なスタイルとは異なるはずだ。しかしこうなればもう「郷に入れば郷に従え」の精神で我慢も必要だろう。

はたまた監督の電撃解任が起きれば、ポゼッションサッカーへの転換に再チャレンジするかもしれない。そのときはDF陣のビルドアップの陣形を徹底的に矯正してアレニャと久保へのボール供給を増やすか、アレニャを完全にビルドアップと守備に専念させて久保とマルク・ククレジャにボールを配給する方法も考えられる。

チームが変わるか、中盤の新戦力2人が変わるか。早めに指針を固めないと、ヘタフェは2部降格が現実のものになってしまうかもしれない。ひいては久保の立場もさらに危うくなるだろう。

【関連記事】
ボローニャ・冨安健洋、ミハイロヴィッチ監督の“最高傑作”になる?
Jリーグ徳島のダニエル・ポヤトス新監督が味わったスペインでの栄光とギリシャでの挫折
FIFA公認カメラマンの渾身ルポ、クラブW杯開催のカタールで完全隔離生活