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リージョが目指したのは本質的な神戸のバルサ化 クラブの試みはストップするのか

2019 4/24 15:00中山亮
サッカーボール,ⒸSPAIA
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驚きの電撃辞任

29%対71%。232本対725本。 これは明治安田生命J1リーグ第8節、埼玉スタジアムで行われた浦和レッズ対ヴィッセル神戸の一戦で記録した両チームのボール支配率とパス数である。

神戸は浦和の3倍以上のパスを出し圧倒的にボールを支配したが、浦和は前半10分に興梠が決めたPKを守りきり1-0で勝利した。

この試合はファン・マヌエル・リージョ監督の後任となった吉田監督の復帰初戦だった。

ファン・マヌエル・リージョ監督の退任が発表されたのは、浦和戦3日前の4月17日だった。「バルサ化」を掲げイニエスタと共に大きな柱でもあったリージョ監督は、わずか7ヶ月でチームを去ることとなった。

三浦淳寛スポーツダイレクターによると、14日の広島戦後に本人から辞任の申し出があったとのこと。だが、ポドルスキは「クラブの意向」という言葉で、事実上の解任であることに含みをもたせる発言をしている。

成績としては、前節まで3勝1分3敗と悪くも良くもない。だが、ポドルスキ、イニエスタに続きビジャと大型補強を次々に敢行したことを考えると、「悪くはない成績」では満足できなかったのかもしれない。

バルサ化に潜む問題点

神戸が掲げた「バルサ化」は、少し前まで世界中の多くのチームがトライし、一時期は世界中で「プチバルサ」があふれかえっていた。

しかし、それらのチームで成功したのは本家グアルディオラが率いたチームを除くとごく一部。そのほとんどは失敗に終わっている。

「バルサ化」を目指す上で最初にトライするのはボール支配率を上げる事だろう。そしてここまでは「バルサ化」を目指すほとんどのチームは成功する。

失敗の原因となるのはここから。ほとんどのチームがボールは支配できるが、得点がなかなか奪えないのだ。そして、前がかりになったところをカウンターで突かれてしまう。

これはある種当然である。得点を奪うなら相手の守備が整う前に縦パスやロングフィードで一気に前にボールを運んだり、少数で速攻をかける方法が最も手っ取り早い。しかしそうなるとボールを失うリスクも増える。結果ボール支配率は下がりやすくなってしまう。

ボール支配率を高くしようとするならボールを失う回数を減らさなければならない。しかし、そうなると相手に守備陣形を整える時間を与えてしまい得点がなかなか奪えなくなる。

まさに浦和戦の神戸がこれだった。

神戸の「バルサ化」は進んでいたのか

「プチバルサ」と同じ問題点にぶつかった神戸だが、リージョが率いた7試合でリーグ2位の12得点を奪っていたように、「得点の壁」はクリアしつつあると言えた。

あとは失点をどう減らしていくかが問題だ。

これはバルセロナでもグアルディオラ以前はてこずっていた問題だが、リージョのコメントなどから推察すると、両チームが攻め合うようなオープンな状況を作らせず、ボールを支配することでクローズさせながら戦うという手法を落とし込もうとしているようだった。

報道ではサンペールの守備力などを中心とした守備の課題が挙げられているが、そもそも目指していたのは全く異なる方法での試合コントロールである。この守備的な選手に頼らずにボールを支配する方法で改善をしようというアプローチこそが本来のバルセロナの考え方・哲学に近い。

「バルサ化」とは何をさしているのか

イニエスタを始め、ビジャ、ポドルスキなど莫大な投資に対しての結果という部分では3勝1分3敗という成績は不満に感じてもおかしくない。ただ、疑問に感じる部分もある。それは神戸にとって「バルサ化」とは何を指していたのかということである。

リージョが取り組んでいたやり方は本質的な「バルサ化」だった。

ただしこのやり方は時間がかかる。そもそもバルセロナ自体が100年以上の歴史を積み重ね、レアル・マドリードというライバルがいたからこそできたものでもある。

そしてリージョはこれまで率いてきたクラブのほとんどで途中解任となっているように「勝てる監督」ではない。リージョは哲学を伝えることで「選手を成長させる」監督である。だからこそグアルディオラをはじめとする多くの人から尊敬を集めてきた。

結果を求めるのであれば圧倒的な選手の質と、彼らを気持ちよくプレーさせることができる監督を招聘する「レアル・マドリード化」の方が近道だろう。 資金力もありクオリティの高い選手もいる。神戸には日本で「レアル・マドリード化」できるだけの素地はある。

バルセロナが世界中で認められているのは「勝敗」の前に常に「自分たちの哲学でプレーすること」があるからである。

神戸が「バルサ化」を目指すというならば、目の前の結果に惑わされることなく、ぜひこのバルセロナの本質を目指してほしい。

チーム内にはバルセロナの象徴ともいえるイニエスタがいるのだから。