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日本ラグビーの悲願は達成された 夢の続きは4年後のW杯で

2019 10/21 11:32藤井一
リーチマイケル(中央)ら日本代表選手Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

勝利へ戦術を徹底させてきた南アフリカに日本も全力で対抗

南アフリカは9月6日のW杯前の日本との壮行試合で、チェスリン・コルビ、マカゾレ・マピンピの両WTBの力を存分に見せつけ、再戦となるW杯の準々決勝ではフィジカル勝負を予言するかのように通常より1人多い6人のFWをリザーブに入れた。

日本のジェイミー・ジョセフHCはそれらのことを踏まえ、今のメンバーでできうる限りの戦略、戦術を駆使したといっていい。FWの総体重で南アフリカより約50kg軽いのにスクラムに細心の注意を払い、モールにもよく耐えた。

前半はミス連発の南アフリカ

準々決勝前、両チームの精神状態はどうだっただろうか。失うものがない日本と違い、実は南アフリカは精神的には追い詰められていたのではないか?

南アフリカは前半、信じられないところで、ノックオンやパスミスを繰り返し、PRテンダイ・ムタワリラがPR稲垣啓太にスピアータックルを見舞ってシンビン(10分間の退出)も受けた。

さらに前半終了間際には、タックルされたCTBダミアン・デアレンデが、落ち着いてボールを離し拾い直せば何の問題もなくトライになったのに持ったまま立ち上がってノットリリースザボールの反則を取られた。

4年前の借りは9月6日に返したとは言え、肝心のW杯で2大会連続で日本に敗れたのではシャレにもならない。気持ちが空回りし、前半を5-3と南アフリカがわずか2点のリードで終了したのは、日本の奮闘はもちろんだが、勝たなければというプレッシャーが彼らに重くのしかかり、気合いが空回りした証拠だ。

後半、日本はなすすべなし

だが、後半に入ると流れが一変する。FWが優勢なのは戦っている本人たちが一番よくわかっていたのだろう。南アフリカがその強味を生かしてくると次第に日本は何もできなくなり、マイボールのラインアウトも全く獲得できなくなった。PGでジワジワ点差を広げられ、2トライを追加、最終的に3-26で日本のW杯4強への挑戦は終わった。

今年、南半球最強を決めるザ・ラグビーチャンピオンシップを10年ぶりに制し、打倒ニュージーランドの一番手とも言われる南アフリカはやはり強かった。しかし、それでもラストワンプレーでさらにトライを獲りに来た南アフリカのアタックを防ぎ切ったところに日本の明らかな成長も感じられた。

1次リーグではアイルランド、スコットランドを世界から絶賛される内容で破り、全勝で突破。称える言葉など見つからないぐらい日本の戦いはすばらしかった。

ジョセフHCは「信念と自信はできた」と今大会の日本代表について語った。後は継続である。すでに続投が間違いないジョセフHCの今後と日本協会には日本のラグビーが本物のティア1国になれるような積極的な取り組みが望まれる。

カーワンHCから始まった変革と継続性が快挙を生んだ

思い返せば、日本のフィットネスの土台を作ったのは2006年に就任したジョン・カーワンHCだ。彼は1987年の第1回W杯を制したニュージーランドの名WTBでその後日本のNECでもプレーした。引退後イタリア代表の監督も務めるなど、その知名度からも大いに期待された。

カーワンHCはフィットネス強化を掲げ、選手の身体的な数値は一気に上がったが、一方で技術や判断力を持つ選手よりも大きくて強い選手を評価する傾向があった。また、2007年、2011年と2大会連続でW杯ではHCを務めたのだが、2007年のオーストラリア戦、2011年のニュージーランド戦では、ベストメンバーで臨まず、「勝てそうな試合」に主力を投入する用兵も評判がよくなかった。

これでは今大会、流行語になった「ONE TEAM」になどなれるはずがない。結果はカナダと2大会連続で引き分けという珍記録は作ったが1勝もできなかった。

続いて就任したのが現イングランドHCのエディ・ジョーンズである。ここで継続されたのはフィットネス強化の部分だけと言っていいが、ジョーンズHCには日本人の血が入っているということ、また、奥様が日本人ということもあって日本人の勤勉、まじめという特性をよく知っていた。

管理されたハードトレーニングにより、選手のスタミナは増強され、戦術も徹底された。こうして成長した日本が2015年、南アフリカ撃破を始め1次リーグ3勝という見事な成果を残したのだ。

それがジョセフHCに代わって、戦術がキック主体になり、自主性が重んじられるようになった。当初、選手たちは戸惑ったが、フィットネスの重要性はさらに強調された。そしてW杯で勝利した経験は2015年組により、若い選手にも受け継がれ、今回の成功に結びついたのである。

対戦相手によってさまざまな戦術で臨んでいたが、それは、当初批判の的にさえなったキック主体の戦術が攻撃のオプションとして日本に加わったことが大きかった。こうした継続としっかり地に足をつけたチームの進化が2011年から2015年、そして2019年とはっきり見て取れる。

4年後、日本代表がもっと大きな感動を手に入れるために、しっかりと継続を図りながら進化していく過程を見守りたい。