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ラグビー日本代表がW杯で対戦するアルゼンチンの実力は?1次リーグ突破のカギ

2022 7/19 11:00江良与一
ラグビーアルゼンチン代表,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ジャパン最大のターゲット国

2023年9月にフランスで開催される第10回ラグビーワールドカップにおいて、日本代表(以下ジャパン)は予選プールDで戦うことが決まっている。このプールにはジャパン(7月11日現在の世界ランキング10位)の他、イングランド(同5位)、アルゼンチン(同9位)、サモア(同13位)、チリ(同24位)が入る。

ジャパンが8強以上に進出するためには、予選を突破せねばならず、そのためには3勝1敗以上の成績が必要だ。ランキング下位の国との対戦で取りこぼしをしないのは絶対条件で、さらにイングランドかアルゼンチンのどちらかに勝たねばならない。

7月9日に行われたアルゼンチン対スコットランドのテストマッチ第2戦(6-29でアルゼンチンが敗戦)の内容から見えてきたアルゼンチンの強みと弱みを紹介したい。

個々の能力の高さと国際試合経験の豊富さが最大の特長

今回のスコットランドとのテストマッチ3連戦に招集されたアルゼンチン代表スコッド33人のうち、31人が海外のプロチームでプレーしており、個々の選手の能力は非常に高い集団であると言える。なお、31人のうち17人はフランスのチームでプレーしており、バチバチの肉弾戦と奔放なランプレーの両面を持ち合わせるフランスラグビーの影響を色濃く受けている。

また、2012年からニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの南半球の3強豪とともに「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」に参戦しているアルゼンチンは、この3強に文字通り揉まれ続けることで、世界でも屈指のフィジカルの強さを身につけている。

この試合でもFW、BK問わず、スコットランドの密集近辺のピック&ゴーに関してはことごとく食い止めていたし、スピードに乗った大型FWと正面からぶつかり合っても決して当たり負けはしていなかった。

また、イングランドのグロスターでプレーしているSOのサンティアゴ・カレラスの、自らの仕掛けで相手ディフェンスにギャップを作らせる技術と、ランのスピードは要注意だ。密集近辺で敵FWに肉弾戦を仕掛けられて、味方のFWがそこにひきつけられ、カレラスの前に広いスペースができた状況などを想像すると、早くも寒気を感じてしまうほどの危険な選手だ。

BKではもう一人、FBのエミリアノ・ボフェッリ(エディンバラ)の安定したキックと191㎝という長身を活かしたハイボールの処理能力の高さも見逃せない。

ジャパンにとってはラインアウトの対策も重要だ。この試合でも相手ボールを一本見事にスチールしていた。相手のサインが読めていなくても、スチールすれすれのプレーにしてしまう、個々の選手のジャンプ力の高さとボール奪取への執念に対しては慎重に対策を講じる必要がある。

W杯で3位が一度のみ…チームとして一体感不足

先にも述べた通り、アルゼンチンというチームは個々の選手の能力が非常に高い。しかしながら、その能力の高さはあくまでも個々人が自ら選び取った環境下で作りあげたもので、その能力の高さをチームとしての強さに結びつけ切れていない。

W杯に9回出場して一度だけ3位を獲得したものの、5回は予選プールで敗退しているという過去の実績からも、常に「あと一歩」というもどかしさを感じさせるチームである。

この試合でも、チームとしての成熟度の端的な表れであるスクラムでは、FWの総体重で40㎏近く上回っていたというのに、常にスコットランドにプレッシャーを受けていた。過去には、スコットランドに対し互角以上のスクラムを組んだ実績のあるジャパンにとってはアドバンテージポイントの一つとなるだろう。

チームとしてのまとまりの弱さはディフェンスラインにも出来した。密集からボールを持ち出したSHが外側にディフェンスを引っ張り、そこにクロス気味にアングルチェンジして走り込んだCTBが直接パスを受けてディフェンスを突破するというプレーを2度成功させ、2度ともトライを奪ったのである。

スコットランドCTBが走り込んだコースは、密集サイドのディフェンスに立った2人目のプレーヤーと3人目のプレーヤーとの間、あるいは3人目と4人目の間あたりである。この辺はちょうどFWとBKがデイフェンスラインに並ぶ境目に当たる。

FWがどこまで広がるのか、逆にBKがどこまで内側をケアするのかといった判断がチームとして定まっておらず、デイフェンスラインのプレーヤーがまごついている隙に一気に突破を許してしまった印象があった。

ただまっすぐ走るのではなく、さまざまな仕掛けでデイフェンスを突破していくことが身上のジャパンにとっては、このスコットランドの2度のラインブレイクは大いに参考になるだろう。

反則の多さにつけ入る隙

そしてアルゼンチンの最大の弱点は反則の多さである。反則は相手に試合の主導権を渡してしまうのみならず、チームの士気を下げ、余計な焦りを生む。特にアルゼンチンというチームは焦れば焦るほど反則が多くなっていく、という傾向がある。

この試合でもFBボフェッリがチームとしての反則の多さを注意された直後にオフサイドを犯し、シンビン(10分間の一時退場)を命じられた。後半、攻めに攻めながらあと一歩のところでついにトライを取れなかったのは、一人少ない状態でプレーした10分間に蓄積された他の14人の疲労の影響もある。

ジャパンとしては、粘り強くディフェンスし、特に接点ではルールをしっかり守って「正当に」ファイトすることで、アルゼンチンの反則を誘うプレーを心がけたい。相手が焦った上に反則を繰り返せば当然勝機は広がる。シンビンや退場などで数的優位の状態となれば有利なのは明らかだ。

アルゼンチンは強敵だが、他のティア1の国々に比べると「脇が甘い」という印象があり、決して勝てない相手ではない。ただし、4年に一度という特別な場で特別な力を出したことのあるチームでもあり、決して楽観できる相手でもない。今回の敗戦で気を引き締め、1年後にはまったく別のチームになっている可能性もある。

ジャパンには、的確な分析とその分析に基づいた効果的な戦術の構築を望みたい。

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