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渋野日向子、畑岡奈紗ら女子ゴルフ「黄金世代」が強い理由

2019 8/14 06:00田村崇仁
渋野日向子ら「黄金世代」はなぜ強いのかⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

日米両ツアー8人で通算18勝

女子ゴルフのメジャー今季最終戦、AIG全英女子オープンで20歳の渋野日向子が日本勢42年ぶりのメジャー制覇を達成し、今季の国内外ツアーを席巻する1998年度生まれの「黄金世代」が脚光を浴びている。

サッカーの1999年世界ユース選手権(現U-20W杯)で準優勝した小野伸二、稲本潤一らも「黄金世代」と呼ばれ、国内外で活躍。神奈川・横浜高時代に甲子園で春夏連覇した「平成の怪物」松坂大輔の世代はプロ野球界で「松坂世代」と呼ばれたが、女子ゴルフの「黄金世代」はなぜ強いのか―。

渋野の全英初出場優勝で、この世代は日米両ツアーを通じて既に8人で通算18勝。いずれも同世代のライバルと切磋琢磨して急成長し、来年の東京五輪代表争いでも中心的存在になる勢いと実力をつけている。

「藍ちゃん」に憧れ

「黄金世代」の共通点を挙げると、日米通算24勝の実績を残して2017年に引退した元世界ランキング1位、宮里藍の影響を抜きには語れないだろう。2003年9月、ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンで当時、宮城・東北高3年だった宮里藍は国内女子ツアーで30年ぶりのアマチュア優勝を果たし、直後にプロに転向した。「藍ちゃんブーム」に触発され、小学生になったばかりの子どもたちがその背中を追ってジュニアゴルファーの道へと次々と足を踏み入れた背景がある。

ソフトボールと「二刀流」を続けていた異色の渋野がゴルフを始めたのも宮里が米ツアーに本格参戦した時期と重なる。「私たちは宮里藍さんに憧れた世代」と多くの選手が言う通り、黄金世代は「藍チルドレン」ともいわれる所以だ。

1998年からメジャー優勝を重ねた朴セリの背中を追って「朴セリキッズ」と呼ばれるジュニア選手が続々と育った韓国勢は米女子ゴルフ界で「世界最強」の地位を築いている。

勝みなみ、畑岡奈紗ら代表格

「黄金世代」の口火を切ったのは、当時・鹿児島高1年の2014年4月にKKT杯バンテリン・レディースで日本ツアー史上最年少の15歳でアマチュア優勝した勝みなみ。「女王」イ・ボミに競り勝ち、年齢の壁を越えてその才能を開花させ、同世代に火を付けた。

代表格は既に日米のツアーで計6勝を挙げ、世界ランキングでも日本勢トップで世界の強豪に割って入る畑岡奈紗だろう。2016年の日本女子オープンで初優勝し、現在は主戦場を米国に置く。

渋野はむしろ遅咲きだった。昨年末の世界ランキングは563位だったが、徐々に成績を上げて5月の四大大会初戦ワールド・サロンパス・カップで初優勝。7月に2勝目を挙げた。5日付の世界ランキングでは14位に浮上し、畑岡に次ぐ日本勢2番手で東京五輪の代表も視野に入ってきた。

主な女子ゴルフ黄金世代ⒸSPAIA

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原英莉花はジャンボ尾崎が師

8月11日まで行われた北海道meijiカップで日本勢トップの4位に入った原英莉花は昨年のプロテストで渋野と同期合格し、今季ツアー初勝利を挙げた「黄金世代」の1人。湘南学院高時代に「ジャンボ尾崎」こと尾崎将司に弟子入りし、173センチの身長を生かした豪快なショットを武器に頭角を現してきた。

国内の賞金ランキング6位につける河本結は3月のアクサ・レディースで初優勝し、日体大で学業と両立を続ける現役女子大生プロ。7月のサマンサタバサ・レディースで初優勝した小祝さくらも有望株で渋野ら同世代の刺激を受けながら「負けず嫌い」という共通点がある。

昨年ツアー初優勝した大里桃子は、渋野とは高校1年時に一緒にラウンドを回って以来の付き合いで、食事もよく一緒にする大の仲良しだ。

五輪へ英才教育

ゴルフが2016年リオデジャネイロ五輪から五輪競技に復活したことを機に、日本ゴルフ協会はジュニアの育成、強化に本格的に乗り出した。海外からコーチを招き、勝や畑岡ら「黄金世代」の多くはジュニア時代からナショナルチームに入り、最先端のスイング分析や栄養学、メンタル面など幅広いサポートで英才教育を受けている。

13日付の世界ランキングでみても、10位の畑岡、14位の渋野に次いで、黄金世代は51位に河本結、63位に勝、71位に小祝さくら、84位に原英莉花と日本勢の上位10人中6人を占め、選手の層が厚い。

渋野は「スマイル・シンデレラ」の呼び名で、宮里藍ら歴代の名選手がはね返され続けたメジャーの壁をあっさり打ち破り、一気にスターダムに駆け上がったが、この世代から今季の賞金女王、さらに渋野の快挙を起爆剤に新たなヒロインは現れるのか。吉本ひかる、臼井麗香、山路晶ら初優勝を期待される「黄金世代」の新戦力も続々と育っている。かつてない活況を呈し、黄金期を迎えつつある女子ゴルフ界から今、目が離せない。