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【ゴルフ】ツアー選手でも起きる持ち球を変更する理由とリスク

2020 8/2 06:00akira yasu
ⒸMr.Somchai Sukkasem/Shutterstock.com
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ⒸMr.Somchai Sukkasem/Shutterstock.com

ドローボールもしくはフェードボール

ツアー選手の多くは持ち球がある。正しい打ち方をすれば、目標よりもやや右に打ち出されて左にゆるやかに曲がるドローボール。目標よりもやや左に打ち出されて右にゆるやかに曲がるフェードボールのどちらかだ。状況によっては持ち球では無い方のショットを打つ場合もあるが、基本的には持ち球を軸にプレーを組み立てている。

それはなぜか。大前提として、ストレートボールを打ち続けることはほぼ不可能であるという考えがある。一球二球は真っ直ぐ飛んでも、他は必ずと言っていいほど大なり小なり左右に曲がってしまう。結果、ストレートボールを打とうとすると、左右どちらの方向にも曲がる可能性があり、戦略が立てにくくなってしまうのだ。

そこで、軸となる球筋をフェードかドローのどちらかにすると、曲がる方向が一方向になるのでコースを攻略しやすくなる。

ドローもフェードも自由自在に打てた方がプレーの幅は広がるが、ツアー選手レベルでも打ち分けるのは至難の業。それよりも1つの球筋を再現性高く打てた方が、プレシャーがかかる場面でもピンを攻めていきやすい。そのため、ツアー選手はドローボールまたはフェードボールのどちらかを持ち球としていることが多いのだ。

球筋によるメリットとデメリット

ドローとフェード、2つの球筋を打つことを比較した時、それぞれメリットとデメリットがある。

まずはドローボール。ドローボールは飛距離を出しやすい。ドローになるクラブヘッドの軌道はインサイドアウト。インサイドアウトはアッパーブローになりやすく、スピン量が少なくなりやすい。よって飛距離を出しやすいのだ。アゲインストの風の影響も少なくて済む。

しかし、スピン量が少なくなりやすいため、グリーンを狙うショットの時、グリーン上やピンの近くにボールを止めることが難しくなる場面が増える。

一方、フェードボールはどうだろうか。フェードボールは飛距離を出しにくい。フェードになるクラブヘッドの軌道はアウトサイドイン。アウトサイドインはダウンブローになりやすく、スピン量が多くなりやすい。よって、飛距離を出しにくく、アゲインストの風に弱い。

しかし、スピンをうまく扱えればグリーン上に、さらに言えばピンの近くにボールを止めやすくなる。

球筋の特性や、自分の身体やスイング、求めるプレースタイルにマッチするか否かをふまえながら、選手たちは持ち球を決めている。

持ち球変更のリスク① 感覚としては180度違うスイング

一度定めた持ち球であっても、競技を続けていく中で新しい目標ができたり課題に直面した時に、持ち球を変更したり、ドローとフェードを両立させることを目指す必要性を感じる時がある。

しかし、持ち球を変更するということは、まったく別物のスイングにトライするということを意味する。

球筋によってインパクト時のクラブヘッド軌道が異なることは先述したが、ヘッド軌道だけではなく、クラブフェースの向きも異なる。さらに、インパクト時のヘッド軌道やフェースの向きが変わるということは、始動からからフィニッシュまでのヘッド軌道やフェース向きが変わることになるのだ。

外から見ていると微細な変化も、選手本人の感覚としては180度違うスイングになる場合があり、スイング中に違和感が生じやすい。違和感があってはリズムやテンポを一定に保ち、再現性の高いショットをすることは難しい。持ち球を変更するためには、この違和感を乗り越えて自分のものにしていく必要がある。

持ち球変更のリスク② 戻したくても戻せない

腰をすえて別物のスイングにトライした場合、成功することもあれば、違和感を払拭できず失敗に終わることもある。もし失敗すれば、元の持ち球に戻すことになるが、それも容易なことではない。

ツアー選手の多くはジュニア期からゴルフをしている。よって、感覚やイメージに頼ってスイングを作ってきていることが多い。「テークバックではクラブをこうやって上げて」などとスイングのことはあまり考えなくても自然とその持ち球になっていたのだ。

しかし、持ち球を変更するには、理論立てて意識的にスイングを作りなおす必要がある。主に右脳(イメージ)を使ってゴルフに取り組んでいても、左脳(論理的思考)も活躍させてゴルフに取り組むことになるだろう。そうなると、元の持ち球に戻す必要が生じた時に、元々あったイメージをすぐに取り戻すことができない場合がある。

正しく理論立てて取り組んでも、新し持ち球を獲得するときだけでなく、元々あったイメージを取り戻すのにも時間がかかる場合があるのだ。

フェードヒッター伊澤利光、フェードヒッター渡邉彩香、ドローヒッター宮里藍

実際に持ち球を変えた選手には誰がいるだろう。著者の記憶に残っている選手だと伊澤利光、渡邉彩香、宮里藍の印象が強い。

2001年マスターズ4位、年間5勝で日本ツアー賞金王になった伊澤利光は、フェードボールを持ち球にしていた。だが、マスターズに勝つためにはドローボールが必要と感じて、ドローボールに着手。しかし、失敗してフェードボールに戻したものの、2001年の5勝目となったフィリップモリスから、2003年の日本ゴルフツアー選手権まで約1年8か月優勝から遠ざかるなどスランプに陥っていた時期がある。

今季女子ゴルフ開幕戦のアース・モンダミンカップで優勝を果たした渡邉彩香は、フェードボールが持ち球だった。それをストレート、さらにはドローに変更することを決断。しかし結果は芳しくなく、これだけが原因かは分からないがスランプに陥いることとなった。今季の開幕戦勝利は、原点回帰し、フェードボールを取り戻すことに成功しての5年ぶりの復活優勝だった。

ドローボールが持ち球だった宮里藍は米ツアーに挑戦して、グリーン上でボールを止めるためにフェードボールが必要だと感じ、スイング改造に着手した。しかし、思うようにはいかず、再びドローボールを持ち球に。そして、「ドローボールでも戦える」ことに気づき、そこからの活躍は周知の通り。世界ランキング1位になるまでに至った。

持ち球変更に着手するということはリスクが生じる。しかし、さらなる高みを目指すためにトライするべき時がある。成功すればプレーの幅が広がるし、たとえ失敗に終わったとしても、原点回帰できた時、元々の持ち球に対しての自信が深まり、強さに変えられるのではないだろうか。

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