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宇野昌磨、高難度の「大技」失敗から北京五輪へ続く逆襲の道のり

2021 4/26 06:00田村崇仁
宇野昌磨Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

3回転半―4回転トーループは五輪への布石

自らの壁を突き破る成長を期して挑んだ「大技」だった。

フィギュアスケートの世界国別対抗戦で、2018年平昌冬季五輪銀メダリストで23歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)は今季最終戦となった男子フリーで高難度のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)―4回転トーループに挑んだが、惜しくも着氷できなかった。情感豊かなスピンやステップで見せ場はつくったものの、得点は164.96点と伸び悩み、6位に終わった。

冒頭で決めれば、世界初成功となる大技に「今できるベストをという気持ち」で挑んだ。3回転半はきれいな放物線を描いて着氷したものの、続けざまの4回転トーループはやや軸が傾いて鋭く回転するも転倒。ただ、まだ手探り段階とはいえ、来季の北京冬季五輪に向けて、この大技の2連続ジャンプに果敢に挑戦したことは、次のステップへとつながる道になるのは間違いないだろう。

チーム戦に貢献できなかった悔しさも隠さなかったが、この大技に続く4回転フリップは成功して出来栄え点(GOE)2.2点を引き出した。持ち前の膝の柔らかさを生かし、スピンは最高難度のレベル4を獲得。情感豊かな演技を終えた後は、今回挑んだ大技に加え、北京五輪へ4回転のループとサルコーの精度向上に励む意欲を示した。

スケート靴変更で大きなチャレンジ

3月の世界選手権(ストックホルム)で4位に入った後にスケート靴を替えた影響もあり、宇野にとって世界国別対抗は大きなチャレンジでもあった。

今季集大成のショートプログラム(SP)は『Great Spirit』が流れ出すと、会場の手拍子に乗せて体が自然に動いたものの、冒頭の4回転フリップをクリーンに着氷できず、4回転トーループでは転倒。77.46点で9位発進と出遅れ、本来の出来とはほど遠かった。

演技後は苦笑いを浮かべて申し訳なさそうに両手を合わせ、テレビインタビューでは「足を引っ張ってしまったなという気持ちでした。滑る本番の前から不安要素がたくさんあり、すべて悪いイメージ通りになってしまった」と悔しさをのぞかせた。

それでも最後まで気持ちを切らさず、スピンでレベル4を取り、音楽と融和して観客を引き込んだのはトップスケーターの意地といっていいだろう。

「見逃せない存在」と五輪公式メディア

五輪輪公式メディア『オリンピック・チャンネル』は新型コロナウイルス禍で「異例のシーズンから学んだ8つのこと」を振り返り、早くも来シーズンの展望を公開している。

世界選手権3連覇を成し遂げたネイサン・チェン(米国)と、五輪2連覇中の羽生結弦(ANA)だけでなく、世界選手権初出場で2位と躍進した17歳の鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)を取り上げた上で、宇野も「見逃せない存在」として指摘している。

5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れ、指導者不在で迎えた2019年は11月上旬のグランプリ(GP)シリーズのフランス杯で8位に終わるなど不振に陥った。

シニア転向5季目で初めてグランプリ(GP)ファイナル進出を逃し、救世主として元世界選手権王者のステファン・ランビエル・コーチに師事して復調。新天地の異国スイスを拠点に苦境を乗り越え、たくましさを示した。

不安定なコロナ禍で思うようにいかないことは確かに多い。それでも失意のたびに宇野はいつも強くなって戻ってくる。

北京五輪へフリーは名曲「ボレロ」

宇野は4月22日、動画投稿サイト「ユーチューブ」で北京五輪シーズンとなる来季のフリーを名曲「ボレロ」で滑ると発表した。振り付けは指導を受けるランビエル氏が務めた。

「内容は今の段階ではかなりハード。なるべくこのボリュームのままシーズンを終えられることを目標にしている」と意気込みを口にした。

今回挑戦した前人未到のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)―4回転トーループの大技も失敗から学び、それを足掛かりにさらに大きく羽ばたけるか―。北京五輪シーズンへ宇野の逆襲が再び始まる。

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