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【Bリーグ第14節】A東京・菊地祥平がチームを鼓舞して指揮官退場のピンチを救う

2019 12/27 06:00マンティー・チダ
円陣を組むA東京の選手Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

A東京がルカHCの退場を乗り越えて秋田に逆転勝利

第13節、東地区上位に位置するA東京は、ここまで唯一対戦成績1勝2敗で負け越していた秋田が対戦相手となった。東地区のプレーオフを争う上で、対戦成績で五分に戻したいA東京だったが、秋田の激しいディフェンスの前に出だしから苦戦し、2Qでは指揮官も退場となった。10点ビハインドで追いかけていたA東京は、指揮官不在ながら後半から一気に点差を詰めていくのだった。

ティップオフからすぐ、秋田#7野本建吾にボールを奪われて先制点を取られたA東京は、#40ジャスティン・キーナンにも3pを許して追いかける展開からスタートする。その後、A東京も#15竹内譲次らが得点するも、秋田・キーナンに速攻とセカンドチャンスからの得点で6点ビハインドとされる。A東京はディフェンスの強度を上げて追い上げ体制としたいが、秋田#21長谷川暢にレイアップ2本を決められるなど、14-24とリードを許して1Qを終了する。

2Qの出だしで秋田はゾーンディフェンスを敷く。10点差を追いかけるA東京は、#3安藤誓哉のキックアウトから#24田中大貴が3pを沈めて好スタートを切るが、直後に秋田・キーナンに3pを決められて点差を詰められない。

田中が3pを外した直後の守備では、#11須田侑太郎に個人ファウルが宣告される。このファウルで激しく抗議したA東京ルカ・パヴィチェヴィッチHCが、テクニカルファウルを2度宣告され退場する。指揮官不在となったA東京に対し、秋田がここで流れを掴みにいき、#24保岡龍斗の得点で突き放すが、A東京も安藤のフローターなどで盛り返し、A東京10点ビハインドでオフィシャルタイムアウトを迎える。その後は両チーム譲らない展開で、結局35-45で秋田がリードをして前半を折り返す。

後半に入り、キーナンのバスケットカウントなどで秋田優位に試合が動きかけたが、A東京#12ミラン・マチュワンが得点し41-50の9点差とする。秋田#43カディーム・コールビーが個人ファウル3回目をコールされた辺りから、A東京に流れが傾き始める。カークのバスケットカウントから始まり、#7正中岳城とマチュアンのピック&ロールからマチュアンが得点し、最後はカークが3pを沈めて3点差まで接近する。

ここでたまらず秋田がタイムアウトをコールするが、A東京の勢いは止まらない。#10ザック・バランスキーのバスケットカウントで同点とすると、安藤のアシストからマチュアンが得点し、この試合初めてA東京がリードを奪うと、マチュアンが3pを沈めて逆に秋田を5点リードとした。終盤、秋田#51古川孝敏がフリースローも含めて4点を返すが、マチュアンがシュートフェイクから得点し60-56とA東京がリードして最終Qへ。

主導権を握ったA東京は、4Q最初の攻撃からオフェンスリバウンドでポゼッションを獲得してカークがダンクを叩き込んで得点するが、秋田もキーナンがレイアップを決めるなど、4点差で試合は進む。A東京はマチュアンのバスケットカウントなどで秋田を突き放して9点差とリードを広げるが、秋田もキーナンのダンクで7点差まで戻し、A東京のターンオーバーから速攻に持ち込むも長谷川が得点できず、A東京に畳みかけるチャンスを逸する。A東京はここを凌いで、#13菊地祥平がレイアップを沈めて秋田の勢いを止めると、終盤にはアシストを2本決めて、得点のおぜん立てをして勝負を決めた。最終スコアは79-71でA東京が秋田に勝利し6連勝、秋田戦も対戦成績2勝2敗と五分に戻した。

A東京・水野宏太トップACがルカHC退場を受けて急遽指揮を代行

A東京は厳しい試合を制した。秋田戦では、この試合を迎えるまで1勝2敗と負け越しをしていたのだ。東地区でプレーオフを争う上で、対戦成績で負け越しを無くしたいA東京だったが、試合の出だしから少しつまずき、その影響が2Qで露わになる。ルカ・パヴィチェヴィッチHCがテクニカルファウルを2回受けて退場となってしまったのだ。その為、レバンガ北海道で指揮経験もある水野宏太トップACが急遽HC代行を担うことになる。

急遽の役回りではあったが、水野トップACはこの日の為に準備してきたことを忠実に実行した。「準備してきた事をどれだけ徹底できるのか。日頃から僕たちのチームはディフェンスを基調とし、しっかりアグレッシブにプレーしてオフェンスに繋げていくスタイルです。秋田の様にディフェンスで凄く当たってくるチームに対して意識していたことは、シンプルなオフェンスを心掛けていく事、そしてそこ(秋田のディフェンス)を打開していく事でした」と水野トップACはチームとしてやるべき方向を既に見定めていた。

後半は秋田相手に26点で抑えて、A東京らしい試合運びを見せた。「前半はディフェンスの入り方がソフトに入ってしまい、キーナンに対して好きなようにやらせてしまったが、ルカHCの退場もあって私も勝ちたいと思っていた」と負けるわけにはいかない状況だったことを伺わせる。

ミラン・マチュワンⒸマンティー・チダ

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同じような展開は前節の島根戦GAME2でも起こっていた。「ディフェンスから良い流れを掴めたというのは僕らの中でも実感があるので、あのようなゲームが出来れば良いな」と考えていた水野トップACは、後半開始から3分で勝負が決まると考えていた。

「後半最初の3分で、しっかりと自分たちのトーンでディフェンスをセットしようと。3Qは相手を11点におさえることができました。そこについては選手たちがしっかり答えてくれた。これは日々練習している中から培ってきている事なので、どのように出しやすい状況を作れるかが僕の役割でした。そこは僕の役割以上に選手が応えてくれました」と手放しで喜ぶ。

急遽采配することになった水野トップAC。ルカHCと長い時間を共有していたからこそ、こういう非常時でも臨機応変に対応できたのだろう。こういう部分一つ取り出しても、A東京の強さを感じる瞬間だった。

エキサイトした裏側で冷静に駆け引きをしていたA東京・菊地祥平

「最近課題なのが出だしの悪さ。この日も露骨に出てしまい、チームを鼓舞していたルカHCがああいう結果になってしまった。勝ったから良かったものの、これからは出だしを良くして、ああいう結果とならないようにしないといけない」

チームは勝利したが、菊池は反省しきりだった。2Qではエキサイトして言い合いになる場面も。ただここには、菊池なりの「狙い」が隠されていた。ルカHCからは「体は熱くなっても頭は冷静に」とよく言われているようで「僕が少し熱くなった部分はどちらかと言えばチームを鼓舞する意味もあり、意外と冷静でした。ホームでしたので、そこをうまく利用しようかと思いました。相手もそれによってイライラが始まり、吹っ掛けてくると思ったので、それを逆手に取って実行しました」と作戦だったことを明かす。

この日は、2QにA東京・須田にファウルの笛が吹かれた場面でルカHCがレフェリーへ激しく抗議をしていた。レフェリーは抗議を受けて、ルカHCに対してテクニカルファウルを宣告。しかし、それでもルカHCの抗議は収まらず、レフェリーは力一杯のジェスチャーで2度目のテクニカルファウルをコールしたのだ。

つまり、ちょっとでもエキサイトする場面をコート上で見せると、テクニカルファウルがコールされる危険性もあった。「最悪、僕と相手チームの選手(キーナン)が共に退場となったとしても、どちらのチームにマイナスの力が発揮されるのかと考えた場合、チームにとって外国籍選手一人がいなくなるというのはすごく大きいことなので、そういった意味でもありだな」と菊地は最悪を想定して駆け引きをしていたのだが、こうも付け加えた。

菊地 祥平Ⓒマンティー・チダ

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「審判と話をするときは熱くなって話をしない。ここで冷静になっていれば、審判に対して『菊池は冷静だな』と印象を与えることになる。こういうことは全て駆け引きだと思っていますので、そこで熱くなって手を出すことなどはいけないことです」

そして、菊池はルカHCに対しても最大限の信頼を寄せている。「ハーフタイムではルカの退場の件が一番大きかったので、絶対負けさせてはいけないと考えていました。スタートメンバーではディフェンス強度で負けないこと。スキル以外のところで負けていたので、そういう意味で後半出だしの3分で自分たちのバスケをしようと話をしていました」

指揮官が不在というのは本来ならば大きな痛手になるはずで、チームにとっても初めての経験だった。しかし、菊池をはじめとする選手たちからは動揺や迷いは感じられない。「水野(トップAC)さんはルカ(HC)さんと一緒にいる時間が長いので、そういった意味で選手の中で『あれは?』というのは全くなかったです。会場のお客さんから声がより大きく出たことで、僕たちのエネルギーが上がったのは大いにあります」と会場の声援が大きな支えになっていたようだ。

「ルカHCがやっていることを忠実に再現してくれたと思う」と水野トップACに対しても感謝の意を表した。A東京は現在リーグ戦連覇中だ。選手とコーチのやり取りから王者の強さが垣間見え、強さを発揮した瞬間でもあった。菊池はそれまでとは少し声のトーンが変わり、チームの事をこのように話す。

「僕たちはどのチームよりも練習をしている自覚があります。練習中でも本当に耳にタコができるぐらい、ちょっと間違ったことがあれば、ルカHCから『ワーッ』と言われているので、それを忠実にやっただけです」

「忠実に」という言葉が出たが「それは簡単ではない」と菊地は話す。「相手もそれをさせないように守ってきますし、スタッフ同士は作戦のつぶし合いをしています。僕たちは2連覇をしている事とルカのバスケットをすれば必ず負けないという自信があります。ルカを信じて、ルカが指示をしてくれたことを100%体現できれば必ず勝てる。そこに迷いとか一切無いですね」と言葉に力が入る。

これまで対戦成績としても負け越していた相手に対し、ルカHCの退場というアクシデントもありながら、まさに「ONE TEAM」で乗り切ったA東京。もちろん、カークや田中のように得点を稼ぐ選手、安藤のようにチームをコントロールできる選手も必要だが、チームを鼓舞するために、自分自身を犠牲にしてでもチームを優位な方向に導くことができる菊池のような選手も必要と感じた。

指揮官のバスケスタイルを貫ければ勝利できるという自信を持つことと共に、こうして数字には表せないプレーをする選手がチームを支えているということも王者であるが故の強さの秘密かもしれない。