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原辰徳、清原和博、松井秀喜… 劇的な瞬間を彩る甲子園の“名実況”

2019 8/22 06:00浜田哲男
甲子園では数々の名実況が生まれるⒸSPAIA
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70年代の怪物を巧みに表現

熱い戦いが繰り広げられてきた全国高校野球選手権も決勝戦を残すのみとなった。甲子園では数々のドラマが生まれる一方で、時として心を揺さぶられる名実況が生まれる。感動の名シーンを思い起こす際、その時の名実況が頭の中で響くという方も多いのではないだろうか。今回は、これまでに甲子園で生まれた数々の名実況を振り返る。

まずは、1975年のセンバツで生まれたこの言葉。現巨人の原辰徳監督が、東海大相模の2年生時に放った豪快な一打は、ラッキーゾーンを飛び越えて左中間へ。あまりにも豪快な打球に対して、実況アナウンサーは「全然…」と言った後に一呼吸おき、次のように続けた。「外野手が追わないホームランなんて高校野球で見たことがありません!」

当時、高校野球の中心的選手として将来を嘱望されていた原のスター性とも相まって、多くの野球ファンの記憶に残っているのではないだろうか。

また、70年代の怪物といえば、忘れてはいけないのが“ドカベン”の愛称で親しまれた浪商の香川伸行(同年ドラフトで南海入団)だ。1979年夏の甲子園・準々決勝の比叡山戦で、自打球を腕に当てた直後にもかかわらず豪快なホームランを放ち、「これで腕が痛いのか!?」と実況。香川の怪物ぶりを改めて印象づける言葉だった。

80~90年代に生まれた伝説のフレーズ

1985年夏の甲子園。決勝のPL学園対宇部商の試合で生まれたフレーズはあまりにも有名だ。それまで同大会で3本のホームランを記録していたPL学園の清原和博(同年ドラフトで西武入団)は、決勝の大舞台で2本のホームランを放って優勝に大きく貢献した。

特に2本目のホームランは左中間席へピンポン球のように飛び込む値千金の同点弾。清原が三塁ベースをまわる瞬間、「甲子園は清原のためにあるのか!」という名フレーズが飛びだした。清原の怪物ぶり、同校の桑田真澄とともにKKコンビと称されて甲子園を席巻していたことなど、清原の存在を実に巧みに表現したドラマティックなフレーズだ。

そして、高校野球ファンであれば誰もが知っているだろう、1992年の夏に星稜の松井秀喜が5打席連続で敬遠された明徳義塾との試合。松井は一度たりとも勝負をしてもらえず、チームも敗れ去った。勝つための作戦とはいえ、明徳義塾に対しては多くの批判が巻き起こり、高校野球の在り方という問題に発展するなど社会現象となった。この試合で松井が敬遠された際、実況アナウンサーは「勝負しません!」という言葉を幾度となく使っている。

歴史を刻んだ瞬間を彩る名実況

選手個人の活躍を表現する名実況のほかに、チームが歴史を刻んだ瞬間にも多くの名実況が生まれている。1990年夏、決勝で惜しくも天理に敗れたものの、沖縄県勢として準優勝に輝いた沖縄水産の球児達の勇姿に対しては、「陽に焼けた南の島の少年達の戦いは、甲子園に新たな歴史を刻みました!」という言葉が送られた。

そして、その20年後の2010年、センバツを制した沖縄の興南高校が夏の甲子園でも悲願の初優勝を果たす。春夏連覇の歴史的瞬間に「半世紀前、甲子園の黒土さえ持ち帰れなかった琉球の島に、深紅の大優勝旗が初めて渡ります!沖縄の夢、島人の悲願を、興南高校が春夏連覇の偉業で叶えました!」とアナウンサーの声が轟いた。

1958年、まだアメリカの統治下にあった沖縄の首里高校ナインが持ち帰ろうとした甲子園の土が検疫に引っ掛かって没収されたことを引き合いに出した名実況。長らく優勝を待ちわびていた沖縄の人々にとって、これほど感慨深い言葉はないだろう。多くの高校野球ファンも心を揺さぶられたはずだ。

2004年夏、駒大苫小牧が済美を決勝で破り、北海道勢初の優勝を成し遂げた際には、「雪の冬に、強い思いを持って鍛え続けた野球少年達の夢!北海道勢、甲子園初優勝!」という実況が響き渡った。

劇的な試合に、劇的なフレーズ

2009年夏、決勝で対戦した中京大中京と日本文理の試合は、今でも語り継がれる伝説の試合のひとつだ。4-10と6点のビハインドで9回を迎え、2死走者なしと窮地に追い込まれた日本文理だったが、ここから怒濤の反撃が始まる。

ヒットに四死球も絡み、あっという間に本塁打が出れば同点という場面を作る。ここで打席に立ったエースの伊藤直輝にもタイムリーが飛び出すと、実況アナウンサーも興奮を抑えきれずに叫んでいた。

「つないだ!つないだ!日本文理の夏はまだ終わらない!」

最後まで決してあきらめることのない球児達の強い気持ちと相まって、多くのファンの心を揺さぶった。この試合で敗れはしたものの、あと1点というところまで中京大中京を追い込んだ日本文理ナインは、全ての力を出し尽くした充実感もあったのか、試合後の笑顔が印象的だった。

大阪府勢の強さを象徴

そして、第101回目の大会となった今年の夏。履正社が5-3で星稜を下して初優勝を果たし、令和最初の大会の頂点に立った瞬間にも名実況が生まれた。

「新たな大阪強豪伝説の始まり!」

大阪府勢は、昨夏に全国制覇を果たした大阪桐蔭に続いて2年連続14度目の優勝となり、今後も大阪の強豪が甲子園の舞台で躍動し続けていくことを予感させるフレーズだった。

今年も幾多のドラマが生まれた甲子園。その一瞬に全てをかける球児達の懸命のプレーが多くの人々の心を惹きつけ、自然と導かれるように印象的なフレーズが飛び出す。今後も劇的な瞬間を彩る名実況が生まれるはずだ。