十種競技の日本記録保持者に陸連が謝罪
まさに前代未聞のトラブルと言っていいだろう。陸上男子十種競技の日本記録保持者、右代啓祐(国士舘ク)が世界選手権(ドーハ)へのエントリーを国際陸連に認められず、9月27日開幕の直前で事実上の内定取り消しとなる事態に見舞われた。
日本陸連は18日の記者会見で内定の基準に不備があったと過ちを認めて謝罪。今後は辞退する外国選手などが出た場合に備えて国際陸連に働きかける方針を示したが、なぜ、こんな大失態が起こってしまったのか―。
右代は「こんな直前はあんまりです。みんなが結団式に参加している姿をSNSで見て本当につらかった。もうチャンスがないんです」と自身のツイッターで心境を語った。
アジア選手権、日本選手権を制覇
十種競技の世界選手権出場枠は24。参加標準記録は8200点となっている。身長196センチ、体重95キロで8308点の日本記録を持つ33歳の右代は「和製ヘラクレス」の異名を持ち、2016年リオデジャネイロ五輪では日本選手団の旗手を務めた実力者だ。
右代は4月のアジア選手権(ドーハ)を7872点で優勝。6月の日本選手権でも7847点で2年連続、単独最多となる8度目の優勝を果たし、日本陸連の基準に則って5大会連続5度目の世界選手権代表に内定したと発表されていた。
日本陸連は今回の世界選手権の選考要項について、十種競技では①6月の日本選手権で優勝し、その時点で標準記録を突破した選手②4月のアジア選手権で優勝し、かつ日本選手権でも優勝した選手―にいずれも内定を出すとしていた。右代は二つ目の条件を満たし、内定を得た形だった。
出場枠32人→24人…想定甘い陸連の「勘違い」
日本陸連によると、アジア選手権優勝者(各大陸王者)は世界選手権参加標準記録突破と「同等の扱い」という認識だったが、これが結果として想定の甘い勘違いだった。
国際陸連は「各大陸王者は世界選手権の出場資格を得る」とした上で、混成種目や1万メートルなど一部の各大陸王者について「国際陸連の技術代表による承認次第」と選手のレベルに基づいて資格の有無を判断するという条項をただし書きで定めており、国際陸連から今月に入って「出場は未承認」との連絡があった。
この条項は前回2017年ロンドン大会から定められた規定というが、当時は日本での適用者なし。ただそもそも出場選手のレベル差が運営に支障をきたす可能性を考慮して設けられており、本来であれば日本陸連は国内選考要項に、例外規定として明記しておくべきだった。出場できる選手が前回の32人から東京五輪と同じ24人に減ったことも影響したとみられる。
今季ベストは世界48位
右代の今季ベストは7872点で世界48位にとどまっていた。出場枠24人で参加標準記録8200点の突破者が21人。24人目は南米王者の8046点だった。
やり投げや走り高跳びを得意とする右代は2度の五輪出場経験もあり、日本陸連はこうした「実績」を考えても出場未承認は想定外だったようだ。
今大会の世界陸上は2020東京五輪出場権をめぐるランキング制度でも格付けが高く、出場できればポイントを上積みできる可能性もあった。今後、辞退者が出た場合などは出場の可能性が残されているが、右代はツイッターで「この3カ月、世界選手権の参加標準記録の突破を目指すこともできた。今は全く整理ができないですが、絶対に自分に負けない様に、腐らない様に走り続けます。ただ、二度とこんな事起きてほしくないです」と述べている。