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日本男子400mリレー、東京五輪「金」へ37秒50を切れるか

2019 5/17 11:00田村崇仁
バトンパスを失敗した3走の小池祐貴(右)とアンカーの桐生祥秀Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

サニブラウンが9秒台突入で競争激化

5年前に国際陸連の主催で新設されたリレー種目のみを行う第4回世界リレー大会が12日まで横浜市の日産スタジアムで行われ、東京五輪で金メダルの期待が懸かる男子400メートルリレーの日本(多田修平、山縣亮太、小池祐貴、桐生祥秀)は予選3組でバトンパスを失敗し、まさかの失格となった。

一方で20歳のホープ、サニブラウン・ハキームが米国で行われた大学南東地区選手権の100メートル決勝で9秒99をマークし、日本人2人目の9秒台に突入。桐生が2017年に出した日本記録には0秒01及ばなかったが、リレーメンバーの競争も激化し、今後の追い風になることは間違いない。

元スーパースターのウサイン・ボルト(ジャマイカ)が引退し、リレーは海外勢も混戦模様となった勢力図の中、日本チームが個人の走力アップに加えてお家芸のバトンパスの精度をさらに磨けば、世界の頂点も狙える期待感が高まっている。

バトンパスで呼吸合わず失格

11日の400メートルリレー予選。日本は終盤まで「想定通り」の完璧な走りだった。

1走の多田が抜群のスタートを切り、2走の山縣もバックストレートをぐんぐんと加速。だが、コーナーを快走した3走の小池からアンカーの桐生へ渡るはずだったバトンパスでミスが起きた。わずかに呼吸が合わず、お手玉のような形になってしまったのだ。

完全に減速しながら桐生が一度は宙に浮いたバトンを何とかキャッチ。海外メディアは「ミラクルな瞬間だった」「日本が驚異的なバトンタッチ」とバトンを落とさず、ゴールまで運んだことに驚きをもって伝えたが、正確にバトンパスができていないとして、レース後に「失格」を言い渡された。

最大の武器で落とし穴

16年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した日本は、お家芸ともいえるバトンパスが最大の武器。個々の走力差をカバーしてきた大きな要因が01年から導入したアンダーハンドパスで、本来ミスが少ない渡し方だ。

手のひらに上から乗せるオーバーハンドパスは海外勢の主流で互いが手を伸ばしてパスする分、距離を稼げる効果がある。一方、手のひらに下から押し込むようにバトンを渡すアンダーハンドはフォームが崩れず、より互いに近づいた状態で渡すため確実性が増すメリットがあるとされていた。

今回の日本のミスは新戦力の小池がバトンの真ん中を持ってしまい、渡す際に桐生と手が重なってしまったという。よもやの「落とし穴」だった。

サニブラウンの融合カギ

今大会はリオ五輪銀メダルメンバーのケンブリッジ飛鳥を脚の不安で欠き、急性虫垂炎の手術を受けた飯塚翔太も万全ではなく、新布陣を組んだ。全員で練習できたのは2回だけだったが、バトンパスは順調だったという。練習でも失敗が少ないことが逆に「安全」「確実」という思い込みにつながった可能性もある。

世界大会で初の走順を試し、戦力底上げを図った中で無念の結末。今大会10位以内に与えられる19年世界陸上ドーハ大会(9~10月)の出場権もお預けとなったが、明るい展望はボルトの後継者とも期待されるサニブラウンの存在だろう。バトンパスは決して得意でなく、拠点は米国。限られた練習時間で彼の実力をチームにどう融合させていくかが今後の大きな課題になりそうだ。

リオ五輪は37秒60で「銀」

日本陸連はサニブラウンを「絶対に必要な戦力」とし、今秋の世界陸上400メートルリレーで新たな大器を加えた布陣で勝負をかけたい意向だ。

日本は9秒台の記録を持つ選手がいなかった16年リオデジャネイロ五輪で37秒60のアジア記録を出し銀メダルに輝いた。東京五輪で頂点に立つには37秒50を切る必要があるとみており、底知れぬ才能を秘めたサニブラウンの成長は大きい。

ガーナ人の父と日本人の母を持ち、188センチの長身を生かしたストライドの大きな走りで、15年の世界ユース選手権では100メートル、200メートルで2冠を達成。世界選手権には16歳5カ月の日本史上最年少で出場し、国際陸連の年間表彰で新人賞に当たる「ライジングスター・アワード」も受賞している。国際陸連のセバスチャン・コー会長も「驚くべき才能を持った選手」とボルトの後継者として期待する。

リーダー役の山縣は昨年、一昨年と10秒00を2度マーク。9秒台突入は現実的な目標だ。力をつけている若手も複数出てきており、一層の戦力充実が期待できる。

優勝は伏兵ブラジル

日本が予選落ちした男子400メートルリレーの男子決勝は伏兵のブラジルが38秒05で制し、米国が2位、英国が3位に続いた。アジアのライバル中国は4位、ボルトが抜けたジャマイカは6位に沈んだ。

ブラジルや英国はバトンパスの精度が急激に上がっていることが共通点。日本の武器を各国も取り入れている背景があり、今後も警戒すべき点だろう。女子決勝は米国が43秒27で優勝した。東京五輪で新種目として採用された混合1600メートルリレー決勝も米国が3分16秒43で優勝した。

マイルリレーに光も

男子1600メートルリレー決勝では、日本(ウォルシュ、佐藤、北谷、若林)が3分3秒24の4位と健闘し、上位10チームに与えられる世界選手権(9~10月・ドーハ)の出場権を獲得した。3分0秒81で走ったトリニダード・トバゴが優勝した。

低迷が続いてきたマイルリレーの日本に光が差した形だ。大黒柱の22歳、ウォルシュはジャマイカ人の父と日本人の母を持つ。04年アテネ五輪で4位に入ったのを最後に、世界の決勝が遠く、厚い壁に阻まれてきた種目だが、4月のアジア選手権で4大会ぶりの金メダルを獲得。予選も全体3番目のタイムをマークするなど、復活の道を徐々に歩み始めている。

リレーは日本人なら小学校の運動会の経験から誰もが胸を熱くする種目。東京五輪でも目が離せない種目になりそうだ。

世界リレーは隔年開催「リレーの祭典」

世界リレーは14年の第1回、翌15年の第2回、隔年開催となった17年の第3回と、いずれも中南米のバハマの首都ナッソーで行われた。五輪や世界選手権など一般的な国際大会で行われる男女400メートルリレーや1600メートルリレーだけでなく、リレーの祭典と呼ばれる特色をもつ。

男子3種目(4x100mリレー、4x200mリレー、4x400mリレー)、女子3種目(4x100mリレー、4x200mリレー、4x400mリレー)、男女混合3種目(4x400mリレー、シャトルハードルリレー、2x2x400mリレー)が行われる。