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男女とも入賞した猛暑の東京五輪マラソン、運営側も臨機応変な対応を

2021 8/14 06:00富田明未
大迫傑,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

MGCで五輪出場権を逃した一山麻緒と大迫傑が奮闘

東京オリンピック女子マラソンは、一山麻緒(ワコール)が2時間30分13秒で8位、男子マラソンは、大迫傑(ナイキ)が2時間10分41秒で6位に入賞した。女子マラソンは2004年のアテネ大会の野口みずき(優勝)、土佐礼子(5位)、坂本直子(7位)以来17年ぶり、男子マラソンは2012年のロンドン大会の中本健太郎(6位)以来9年ぶりの入賞となった。

一山はレースの途中から先頭集団に遅れを取ったものの、序盤からスピードのある走りを見せ、最後まで粘り切った。鈴木亜由子(日本郵政グループ)はレース中盤で26位まで落ち込んだが、19位に順位を上げた。前田穂南(天満屋)はスタート直後は先頭に立つ場面も見られたが、徐々にペースを落として33位でゴール。とはいえ、棄権する選手もいた中で見事最後まで走り切った。

東京五輪女子マラソン結果


ケニアやアメリカの不整地でトレーニングを重ねてきた大迫は、悪条件の中でも適応力を見せ、終盤で8位から6位に上げた。中村匠吾(富士通)は序盤から集団に遅れ、第2集団でレースを展開したものの62位。服部勇馬(トヨタ自動車)はレース半ばまで先頭集団で奮闘したが、体調不良で順位を大幅に落とし、悔しい結果となった。

東京五輪男子マラソン結果


見事入賞を果たした一山と大迫だが、2019年9月に行われた東京オリンピックの選考レース「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」では、両選手とも内定を逃している。

MGCでは、男子マラソン代表に中村と服部、女子マラソン代表に前田と鈴木が決定。一山と大迫はMGC後のレースで健闘を見せ、それぞれ最後の出場枠に食い込んだ。東京オリンピックの延期が決定してからも、両選手は実力を着実に伸ばし、今回のレースでも結果を残した。

大迫は自身のSNSを通して東京オリンピックで引退することを表明しており、今大会が陸上人生最後のレースだった。大会終了後は関係者やファンに向けて、感謝の意を述べている。

予想外の暑さと湿度で途中棄権する選手が続出

東京オリンピックのマラソン会場として、北海道が選ばれたのは、都内の暑さが懸念されたからだ。2019年にドーハで開催された世界陸上では、気温の高さが原因で途中棄権する選手が続出。これを受けて国際オリンピック委員会は、比較的気温の低い北海道をマラソンの会場に決定した。

しかし、レース当日の道内は予想以上の暑さに見舞われ、過酷な条件下での戦いになった。炎天下におけるレースを避けるため、7日の女子マラソンはスタート時間を1時間繰り上げた午前6時に変更。8日の男子マラソンは予定通り7時からスタートしたが、出走した106人中、30人の選手が途中棄権する結果となった。

日本代表として出場した服部は、途中でペースを大幅に落とし、ゴール直前でけいれんを起こした。フィニッシュ後は膝から崩れ落ち、車椅子で運ばれた。スタート時点では気温が30度以下だったものの、湿度は80%。高湿度の状態だと、汗が蒸発しづらく体内に熱がこもってしまい、熱中症等の体調不良を起こしやすくなる。

途中棄権した選手の中には、ロンドンオリンピックで金メダルを獲得したスティーブン・キプロティク(ウガンダ)も含まれていた。

選手も運営側も臨機応変な対応が必要

普段から厳しいトレーニングを積んでいるアスリートでも、コンディションによっては42.195kmを完走することは難しい。今回の東京オリンピックを振り返っても、マラソン競技がどれほどタフな競技かが分かる。

選手は様々な状況に対応できるように、トレーニングを工夫する必要があると同時に、運営側も選手が最大限のパフォーマンスをするための環境づくりを目指す必要がある。

女子マラソンのレース開始時間が1時間早まることが一山に伝えられたのは、彼女が就寝した後だった。あまりに急すぎる報告に一山はしばらく寝付けなかったという。当日のレース開始時間に合わせて生活リズムを整えてきた選手もいただろう。

気温によってはレースが1時間早まる可能性がある旨を、もう少し早く知っていただけでも選手は体調を整えやすかったのではないだろうか。運営側は様々な可能性を予想して、臨機応変に対応する必要がある。今回は見通しの甘さを露呈する結果となった。

次のオリンピックはパリで開催される。東京オリンピックの課題を踏まえて、今度こそ選手がフルに力を発揮できる環境を実現してほしい。

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