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東京五輪男子400mリレーのメンバー予想、金メダルへのベスト布陣は?

2021 7/25 11:00鰐淵恭市
リレーメンバーに選ばれるのは誰か,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

9秒台4人の最強メンバーから選ばれるのは?

開幕した東京五輪で金メダルを期待されるのが、陸上の男子400メートルリレーだ。2008年北京五輪、2016年リオデジャネイロ五輪ではともに銀メダルを獲得。両大会では100メートルで9秒台の選手は日本にいなかったが、東京五輪では4人もいる。いったい誰が何走を任されるのか。予想してみた。

リレーを走ることができるのは、100メートル代表の多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)、200メートル代表のサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)、山下潤(ANA)、飯塚翔太(ミズノ)、リレーメンバー専門のデーデー・ブルーノ(東海大)、桐生祥秀(日本生命)の8人だ。

ただ、実力や調子を見ると、山下と飯塚が出場するのはかなり厳しく、実質的には6人が4人のメンバー入りを争うのではないかと思う。

リレーメンバーの自己記録

スタートのうまさで1走は多田修平で決まり

走順を占う前に、それぞれの区間の特性と、その特性を持った選手を説明する。

スタートを担う1走は、文字通りスタートダッシュが得意な選手が起用される。日本で言えば、山縣か多田がその候補になる。

リオ五輪では山縣が1走を走った。山縣がリードを奪う形になり、ほかの区間の走者を気持ち的に楽にさせることができた。日本陸連の関係者をして「1走としては世界トップレベル」とまで言わしめる走りだった。

北京五輪とリオ五輪のリレー走順


長らく1走の「レギュラー」は山縣だと思われていたが、五輪代表選考会の日本選手権を経て、状況は大きく変わった。2度の世界選手権で1走を走って銅メダル獲得に貢献し、山縣のバックアップとして考えられていた多田が100メートルで優勝し、五輪代表になったからだ。

ほかの区間も走れる山縣とは違い、多田の適性は1走のみ。調子を上げている日本王者を使わないという選択肢はなく、そうなると、必然的に1走は多田になると見る。

エースが集う2走は日本記録保持者の山縣亮太で

400メートルリレーは、4×100メートルとも表記されるので、100メートルの力が重要に思われがちだが、少し違う。バトンを受ける走者は基準点(100メートル、200メートル、300メートルの地点)の20メートル前からスタートする。そのスタートした地点から基準点の10メートル後ろまでの30メートルが、バトンを受け渡し可能な「テイクオーバーゾーン」と呼ばれる。

なので、2、3走は120~130メートルを走ることになる。また、バトンパスで、受けと渡しの両方をするのも2、3走のみである。ただ、2走と3走では走者に求められる特性は少し違う。

2走は上記のように、100メートルより長い距離を走る走力が必要で、200メートルの選手が担うことが多い。北京五輪では末続慎吾、リオ五輪では飯塚と、やはり200メートルの選手が走っている。今回で言えば、200メートル代表のサニブラウン、日本選手権で優勝した小池が該当する。

また、直線でもある2走はエースが走る区間でもある。通常、エースはアンカーと思っている人も多く、そういう配置もあるが、アンカーは2走よりも走る距離が短くなる。だから、エースの走力をいかすのなら、2走で走らせるべきである。

今の日本のエースは誰か。それは日本記録となる9秒95を今季マークした山縣だろう。山縣はダッシュ型であり、200メートルを走るイメージはあまりないが、同じダッシュ型の多田と違って後半もスピードを維持することができ、130メートルぐらいまで走るのは問題ない。

今回の走順を決めるであろう、五輪強化コーチの土江寛裕氏はかつて「山縣は2、4走もいける」と語っていた。山縣自身も「走りたいのは4走だけど、2走を走ることになると思う」と語っており、山縣が2走になるのは固いと思われる。

2走の「ライバル」がいないことも、「山縣2走」の大きな要因である。本来ならば、サニブラウンに適性があるが、日本選手権の調子から戻らないようだと、リレーを走るのは厳しいかもしれない。

また、ほかの200メートル代表の飯塚、山下は先述のように厳しい。200メートル日本王者の小池という選択肢がないわけではないが、小池の調子も万全というわけではなく、エース区間を走らせるのはしんどいだろう。

「職人」が求められる3走は桐生祥秀か小池祐貴か

3走はカーブを走る区間で、2走と違ってバトンの受け渡しがともにカーブになり、バトンパスが最も難しい。その技術を持ち、かつカーブの走りに長けた「職人」が起用される。

北京五輪のころであれば、200メートルが専門だった高平慎士が長らく3走を任されていた。近年で言えば、3走といえば桐生の持ち場である。リオ五輪とその後の2度の世界選手権ではいずれも桐生が3走を務めた。アキレス腱痛の回復具合が気になるが、桐生の3走には安定感がある。

ただ、今回は少し事情が違う。小池の存在だ。小池は100メートル、200メートルの両方で五輪出場の権利があったが、「400メートルリレーで金メダルを狙うため、個人種目は1種目」という日本陸連の要請に応じる形で、200メートルの出場は辞退し、リレーにかけている。

そういった事情を考慮すれば、小池をリレーメンバーに入れないわけにはいかない。小池は200メートルが得意であり、カーブの走りは得意である。9秒98を出したころの調子ならともかく、現在の走力でいえば2、4走での起用は難しく、起用されるなら3走になる可能性が高い。

本人のコメントを聞くと、小池は3走を希望している。3走の職人とも言える桐生なのか、個人種目を絞ってまでリレーにかけた小池なのか、ここは直前の状態をみるまでわからないかもしれない。

勝負強さが要求されるアンカー

400メートルリレーは、各レーンでずれた位置からスタートするので、どのチームが何位なのかはわかりにくい。順位がはっきりするのは、横並びになる4走の区間になってからである。つまり、3走までの選手は自分の走りに集中すればよかったが、アンカーの選手は勝負を意識した走りになる。

だから、アンカーは勝負強さが必要になる。北京五輪で言えば、長らく日本の短距離界を引っ張って来た朝原宣治、リオ五輪では勝負強かったケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が起用された。

今回のアンカーの予想は非常に難しい。3走次第ということもあるし、サニブラウンの復調にもよる。桐生が3走なら、サニブラウンかデーデー・ブルーノになるのではないだろうか。

サニブラウンは日本選手で唯一9秒台を2回出しているし、力的には問題がない。かつ、五輪直前も海外で調整していることから、バトンパスの練習があまりできていない。そう考えると、バトンを受けるだけのアンカーはあり得る。ただ、日本選手権から調子が戻っていないようなら、難しいだろう。

デーデーは未知数である。これまで、日本代表クラスの経験がないから、バトンパスの練習をしたことがあまりなかっただろう。日本選手権2位とは言え、10秒19が自己ベストのデーデーにアンカーを任せられるのかというのもある。もちろん、伸び盛りというプラス要素もある。

もし、3走が小池なら、アンカー候補に桐生が加わる。100メートルでは勝負弱さが指摘される桐生だが、リレーでの桐生は別人のように勝負強い。気持ちで走るタイプだけに、アンカーはうってつけでもある。桐生も3、4走を希望しており、アンカーの準備はできている。

注目の男子400メートルリレーは、8月5日に予選、6日に決勝が行われる。

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